
友井さん初の歴史小説。スープ屋しずくシリーズなどの文庫に慣れ親しんでいる身
としては、単行本ってだけでちょっと異色な感じがしちゃうのですが、評判が
良いので読むのを楽しみにしてました。昨年のこのミスでも結構な上位にランクイン
していたのじゃなかったかな?帯も、ものすごいメンバーが絶賛のコメントを
寄せているしね(横山秀夫さん、門井慶喜さん、乙一さん、月村了衛さん、薬丸岳
さん、芦沢央さん、今村昌弘さん、大石大さん、岡崎琢磨さん・・・これだけ
コメント集めただけでもすごくない?w)。
いやー・・・めちゃくちゃのめり込んで読みました。読み終えた後、しばらく
放心状態だった。これはねぇ、私の語彙力のないクソみたいな文章じゃ、全然
この本のすごさを伝え切れないなって思う。内容はめちゃくちゃ重いし暗いです。
題材は、大正~昭和まで50年の月日をかけた実在の冤罪事件をベースにした
フィクション。日本の巌窟王と言われた吉田石松さんという方がモデルになって
いるようです(巻末の参考文献参照によると)。
この作品の内容が、ほぼ実話に近いとしたら。あまりにも理不尽過ぎる。こんな
酷い冤罪がまかり通っていたなんて。警察や検察の捜査の杜撰さにも、理不尽で
暴力的な取り調べにも、腹が立って仕方がなかった。
主人公は、腕のいい硝子職人の岩田松之助。無骨だが、仕事の休み時間には近所
の子どもたちに尺八を聴かせてあげるような、心根の優しい男だった。ある日、
松之助は、全く身に覚えのない強盗殺人の罪を着せられて逮捕されてしまう。
昔、同じ職場だった沼澤という男が、仲間の入江と強盗殺人の罪で逮捕され、
取り調べで岩田の名前を出したからだった。松之助は、事件のあった当日、
想いを寄せている山田キクという女性の家の前で、窓越しに見えるキクの姿を
見つめていた。キクは知人の男性二人と談笑していた。男性二人がキクの家を
去る際、松之助の姿を見られたような気がしたが、裁判では証明されなかった。
結果、松之助は主犯として有罪判決を受け、21年の獄中生活を余儀なくされた。
しかし、獄中でも、出所後でも、松之助は終始自らの無罪を主張し続けた。
出所後は、無罪を証明する為、弁護士に頼んで再審を訴えるのだが――。
何といっても、松之助のキャラクター造形が素晴らしいです。どんなに無慈悲で
残虐で拷問のような取り調べを受けても、絶対に自らの主張を曲げずに、ひたすら
無実を主張し続ける不屈の精神力が凄まじい。普通、あそこまで酷い仕打ちを
されたら、やってもいない罪を認めたくなってしまってもお仕方がないとも思う
のですが・・・。あの執念にはただただ、頭が下がるばかりでしたね。
それに、どんな時も、味方になってくれる人に対する感謝や気遣いを忘れない、
情に厚い人柄もとても魅力的だった。まともな人間であれば、松之助と接して
いたら、絶対この人の為に何かしてあげたいって気持ちになると思うな。現に、
再審請求が却下されて、絶望の淵に立たされながらも、終始誰かが松之助の
味方になって、更なる再審請求に加担してくれていたので。とはいえ、あそこ
まで主犯の沼澤の証言が矛盾だらけだったのに、自分たちの過ちを認めたくない
がために、再審請求を許可しなかった司法側には、腸が煮えくり返る思いが
しましたが。今だったら考えられないような常識がまかり通っていることに
何度も唖然としました。悔しくて辛くて、言葉が通じないことがもどかしくて。
松之助の絶望が行間から伝わって来て、ずっと苦しかった。字の読み書きも
出来なかった松之助が、再審請求の為に、少しづつ文字を覚えて行くところには
胸を打たれました。きちんと学校で勉強を教わっていたら、きっと真面目で優秀な
学生だったでしょう。
あんな理不尽な罪を着せられなければ、きっともっと素晴らしい人生が送れた筈
なのに。雪冤までの時間が長すぎた。お金がどうかじゃなく、松之助の50
年の月日を返してあげてほしいと思ってしまう。ただただ、雪冤の為だけに
費やした50年。
最後の再審の結果のシーンは、本当にドキドキした。結果はわかりきっているとは
いえ、それまでがそれまでだったからね・・・。
あの言葉が出て来た瞬間、涙が溢れて来ました。私、あんまり小説読んで泣く
人間じゃないんですが・・・感動で涙が止まらなかったです。
そして、やっと長かった裁判が終わった後の松之助のその後にも。どうして、
ここまで来たのにって。もっといっぱい、幸せな体験して欲しかった。
でも、本人は、もう、やりきったって感じだったのかな。
この作品を読んだ後、ニュースで再審制度の改変が話題になっていて、どういう
改変が議論されているのかわからないけど、松之助のことが頭によぎりました。
松之助のような理不尽な目に遭う人間が少しでも減って欲しい。松之助の場合は
戦前の混乱期だったのも悪かったのでしょうけど・・・警察の捜査とか取り調べ
とかも酷かったしね。そういうのも、今では考えられないとは思うけどさ。
とにかく、いろんな感情がいっぱい芽生える作品でしたね。圧倒された(語彙力0)。
いいシーンがたくさんあるんですよ。言及したいところが。でも、私のクズみたいな
文章なんか読むよりも、ご自分で確かめて欲しい作品です。
来年の本屋大賞候補に選ばれて欲しいな。こういう本こそ、一人でも多くの人に
手にとって欲しい。多くの人に読まれるべき傑作だと思います。
今までの友井さんとは、一線を画すような作品だと思う。こんな作品が書ける人
だとは思わなかったなぁ・・・おみそれしました。