ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田忠司「こつこつ、オムレツ」(ポプラ社)

太田さん最新作。借りようと思った時は気づいてなかったのだけど、大分前に

読んだ、和菓子職人の卵を主人公にした『和菓子迷宮をぐるぐると』の姉妹編に当たる

ようです。確かに、読んでる途中で主人公が製菓学校時代のことをちょいちょい

思い出すシーンがあって、そこで和菓子職人志望の男の子のことが出て来て、

何となく思い出しました。めっちゃ好きな話だったんだよね。読み返したく

なっちゃった。

本書は、老舗ホテルでパティシエとして活躍する田城陶子が主人公。華々しい

経歴と、容姿端麗な女性パティシエとして、ホテルのYouTubeでも評判となって

おり、前途洋々な日々を送っていた。しかし、シェフパティシエの星川に厳しく

叱責されたことがきっかけで、搾り袋が扱えなくなってしまう。医者から診断

されたのは、局所性ジストニアだった。労務課の福利厚生担当の女性に相談すると、

休職を勧められ、受け入れることに。パティシエとしての未来が閉ざされ、鬱々と

する日々を送っていた陶子は、ふとしたきっかけで、以前職場で知り合った、

ライターの小瀬という女性が局所性ジストニアについて書いた記事を見つける。

小瀬に連絡を取ると、小さな商店街の中の洋食屋で会うことになった。そこで

食べたオムライスは、感動的な美味しさだった。食後、お店の店主が挨拶に来て、

なぜか小瀬が店主にインタビューを始めた。雑誌の連載記事で『オムレツと私』という

企画に載せる為だという。そして、なぜか小瀬は店主に、陶子のことをオブザーバー

として紹介した。その日から、小瀬はこの企画の取材に陶子を毎回連れて行く

ことに――。

毎回いろんなオムレツが出て来て、めちゃくちゃオムレツが食べたくなりました。

突然のイップスによって、華々しいパティシエの道が閉ざされたしまった陶子が、

小瀬とという謎めいたライターと出会ったことで、いろんなオムレツと、

それを作る人々と出会ったことで、少しづつ自分を取り戻して行く再生譚です。

面白いし読みやすいから、あっという間に読み切ってしまった。人と人とが

出会って、繋がって行くところも良かったなぁ。何より、出て来るオムレツが

どれも美味しそうで。ただ、唯一、フランスのモンサンミッシェルのスフレオムレツ

に関する記述だけは、大いに共感出来ましたけども。単体で食べると、あんまり

味がないのよ。だから、現地で食べた当時、前評判ほど美味しいと思わなかった

んだよね、私も。もっと塩味欲しい!って思った覚えがあって。途中で飽きた。

多分、その後日本進出したので、日本で食べた方が美味しいんじゃないかな~。

日本店では食べたことがないので憶測ですが。多分、日本人向けにいろいろ改良

されてると思うからね。

オムレツって、個人的にはめちゃくちゃ難しいと思ってる。オムレツもオムライス

も、上手く出来た試しがない。ふわふわとろとろのオムレツが作れるように

なれたらいいのにな~って思うけど、それなりに修行が必要ですよね。卵料理は

とても奥が深いと思う。そもそも、最近は卵高騰で、コストもかかるしね。相方が

卵大好きなので、卵は必ず常備してはいるけども。味付け卵で誤魔化している(笑)。

ライターの小瀬さんが、なぜ自分のオムライスの取材に陶子を連れ回すのか。

その辺りの真相にもぐっと来るものがありました。彼女にも、過去に苦い思い出

があった。他人事とは思えなかったのでしょうね・・・。良いコンビだな、と

思いました。小瀬さん以外にも、陶子にはいろんな出会いがあって、そのどれもが

彼女にとってプラスになったと思う。小瀬さんと出会えて、本当に良かったな、と

思いました。イップスの原因になった星川シェフとも、最後は和解出来て良かった

です。まぁ、現実には、なかなかこういう結末にはならない場合がほとんど

だろうけどね。

陶子の両親も、陶子の症状に理解があって、いいご両親だなぁと思いました。

終盤の父親の涙には、意表をつかれてしまって、ぐっと来たな。もっとクールな

人だと思ってたからさ。内心、すごく心配で仕方なかったんだろうね。

心癒される、素敵な作品だった。やっぱり、太田さんの作品はいいね。