ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

雨井湖音「僕たちの青春と君だけが見た謎」(東京創元社)

仙台の高等支援学校を舞台にした『僕たちの青春はちょっとだけ特別』のシリーズ

第二弾。前作は結構好評だったみたいですね。

前作同様、青崎架月の元に学園内で起きた謎が持ち込まれ、周りの友人や先輩や

教師の手を借りながら、その謎を解明していく。生徒たちはみんな、何らかの

障害を抱えた子ばかりなので、謎の解明は当然ながら一筋縄では行きません。

探偵役の架月自身でさえそうなのですから。周りの人間の感情の機微がわからず、

共感が出来ないため、しょっ中誰かに怒られたり注意されたりしている。それでも、

学園生活を続けるうちに周りの人間とも親しくなり、少しづつ成長している節が

伺えますね。

ただ、周りの子たちもみんな、会話の受け答えがちょっと普通とは違ったりするので、

正直、今回も読んでいてイライラさせられることも多かったです。禅問答を聞いて

いる時のようなわからなさというか。会話同士が噛み合っていないというか。

そういう文章を延々と読まなければならないのは、ちょっと精神的にしんどい。

障害を持つ人間への理解や配慮が足りないと言われてしまえばそれまでなのだけど、

自分が理解出来ないものを読まされるのって、言葉が通じない人間同士の会話を

読んでいるようで、結構ストレスなんですよ・・・。それも個性と受け入れて読む

べき作品なのはわかっているのですけどもね。

出て来る謎も、普通の高校生だったらこういうトラブルにはならないだろう、という

ものばかり。例えば一話目の、コンビで漫画を描くことになった作画担当の沙耶と

原作担当の拓海のトラブルなんかもそう。細密で見事な水族館のイラストを描いた

沙耶の絵を見た拓海が告げたのは、『背景を黒く塗りつぶして』という非情なもの

だった。なぜ、拓海はそんなことを言ったのか?という謎に架月が挑むという内容。

普通の子だったら、黒く塗りつぶして欲しい理由をちゃんと相手に告げることが

出来て、こんなこじれたりしないんですよね。でも、拓海はそれを説明したく

ないし、沙耶の方はなぜかを説明して欲しいと相手に告げることが出来ない。

普通の人なら簡単な意思の疎通が出来ないから、トラブルに発展してしまう。それを

解き明かすのも障害を抱えた架月なのだから、そりゃーもう、こじれを直すのは

大変です。でも、架月は基本的には頭が良い子なので、持ち前のひらめきや真面目さ

でその難問を解明して行けてしまう。架月が一つ謎を解く度に、少しづつ周りの

人間の感情や行動を学んで行って、成長を遂げて行くところが、このシリーズの

読みどころでしょうね。

それぞれの人物の障害がいまいちはっきり書かれていないので(由芽のように

断定的に書かれている子もいますが)、なかなかそれぞれのキャラの性格が

掴めなくて、戸惑うことも多かったです。そこら辺は、誰がどんな障害を持って

いるのか、はっきり書いてもらった方が、その子の言動を理解しやすいと思う

んだけどな。そういう点で、由芽なんかの個性はわかりやすいから。一番

わからないのは、前作でもそうだったけど、優香。優香の障害って一体何なのかな。

発達系とかそっちなのか。一見、普通の子にしか思えないんだよなぁ。確か

前作でも同じように感じた覚えがある。みんなから慕われていて、アイドルのように

可愛いとチヤホヤされていて。普通の学校のマドンナと変わりない。一体どこが

『特殊』なのか。誰に対しても親切だしね。

二話目は、由芽のスクラップする予定だった新聞が紛失したのはなぜかという謎。

新聞を盗んだ犯人はすぐにわかってしまうけど、その理由にはなるほど、と思わせ

られましたね。基本的に、この学園で起きる事件は、悪い感情からのものはない

んですよね。みんな、それぞれやった人間にとっての『正しさ』がある。そこが、

普通の青春小説とは違うところかな、と思いますね。

三話目は、実習生が来たことに喜んでいた深谷が、なぜかある時から態度を変えて

しまった。それはなぜか、という謎。これは、予備知識がなければ解けない謎

でしたね。介護という言葉の持つ影響について、考えさせられました。

 

特殊な性格の子供たちばかりが出て来るお話で、なかなか彼らの感情を理解するのは

大変かなと感じます。

ただ、その特殊な世界に敢えて切り込んだという意味で、他にはない個性を持った

シリーズなのは間違いないところでしょうね。

作者の雨井さんが実際に高等支援学校の教員をされているということで、とても

学園内の描写はとてもリアルだと思います。

今後は、普通の中高生たちの青春ミステリーなんかも読んでみたいですね。