ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山田正紀/「翼とざして アリスの国の不思議 」/光文社カッパノベルス刊

山田正紀さんの「翼とざして アリスの国の不思議」。

1972年、8月。わたし、瀬下綾香は、右翼青年グループ『日本青年魁別働隊』の一員として、
南洋の島海鳥諸島の島の一つ、鳥迷島に上陸した。だが上陸してすぐに、後輩の紗莉が
崖から突き落とされた。わたしは‘わたし’が紗莉を突き落とすのを遠くから見ていた。
あれは本当にわたしなのだろうか?わたしは人を殺したのだろうか?真相はわからないまま、
次次と他のメンバーも殺されていく・・・殺しているのはわたしなのだろうか――それとも、
わたしも殺されるのだろうか・・・。山田正紀が贈る本格ミステリ第1弾。

辛かったです。危うく今年初の挫折本になるかと思った位、読み進めるのが辛かった。
完全に題名に騙されました。副題に‘アリスの~’なんてついたら、ほのぼのした可愛らしい
ミステリかと思うじゃないですか。蓋をあけてみたら、全共闘時代の右翼思想を持った青年
たちが主人公。それぞれのキャラクターに可愛げなど一つもなく、共感出来るところも何も
ない。いくつかの視点で語られるのですが、それぞれみんなどこか不安定な精神状態で、夢
の中の出来事を述べているかのようなあやふやな描写が非常に嫌悪感を誘う。実はラストまで
読むとこれも伏線の一つではあった訳なのですが、途中はもうこの小説から早く解放されたい
思いでいっぱいでした。ただ、謎解きを読むと、作中にひっかかっていた部分が全て伏線で、
ラストに繋がっていたことがわかるので、ミステリとしての謎解きの面白さという部分は
評価できました。それと、作中に出てくる謎の人物‘蠍’が本編とは全く関係ないキャラと
して無意味に登場するのが気になったのですが、あとがきで作者がそれについて言及していて、
この人物が次以降の作品に重要な役割を担っていることがわかりました。

真犯人が用いたトリックはかなり拍子抜けというか、一歩間違うとバカミスに近いです。でも、
細かい伏線の使い方などは非常に上手く、作者の本格ミステリへの意気込みみたいなものを
感じました。たまに‘ミステリオペラ’みたいな本格ミステリの怪作を生み出ししますからねぇ、
山田さんは。
それにしても、この副題はいけない。だって作中に‘アリス’なんて単語は一つも出て来ない
んですから。何故この副題をつけたのか疑問。確かに鳥迷島自体は不思議な島ではあるのですが、
別にこれにアリスをつける必要はない。ヒロインは不思議の国(島)に迷い込んだアリス
というような存在ではないのですから。女性の読者獲得を狙ってつけたとしか思えないの
ですが。そしてそれにまんまと騙された私^^;
ただ、あとがきを読むと、どうも本書は2部作になっていて、次作の副題が‘アリスの
国の鏡’というらしい。そこまで読んだらアリスの意味がわかるのでしょうか。でも正直
本書が好きかどうかと聞かれると、好きではないと答える以外にありません。しかも
この2部作のテーマが「アイデンティティの揺らぎ」だそうな。また次も謎解きまであの
辛い思いをすることは必須。次作を読むべきか読まざるべきか。とりあえず出てから考え
ようかな。