ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ/「優しい音楽」/双葉社刊

瀬尾まいこさんの「優しい音楽」。

僕の前に突然現れた千波ちゃん。毎朝何故か駅で僕のことを捜している。僕のことが
好きという訳ではないらしい。そして僕は彼女の真意がわからぬままに彼女と少しづつ
会話を交わすようになり、彼女と付き合うことになった。しかし付き合って半年経っても
彼女は僕を彼女の家に招待してくれない。僕はご両親に挨拶したいのに・・・しかし
ついに彼女の家に行く機会が!そこで僕は思いがけない事実を知ることになる――表題作
「優しい音楽」他、2編の中篇を収録。


瀬尾さんの文章は、読んでいるだけで何か心地よい音楽を聴いているような気分に
なります。それぞれの作品、全ての人物がいい人という訳ではないのに、何故か
最後まで読むと瀬尾さんが書きたかった、人と人との暖かい繋がりというものが見えて
くる。直球の大感動ストーリーという訳ではないのに、とても心にほわんと入り込んで
くる優しさというのがある。素敵だなぁと思います。言葉の使い方がとても綺麗なんですね。
男と女のどろどろした関係も出てくるのに、何故かさらっと受け流せてしまう。不思議です。
瀬尾さんの作品が人気があるのはわかりますね。とかく人と人との関係が希薄になりがちな
現代社会の中で、きっとみんなどこかでこういう暖かい人との交流を求めているのではない
でしょうか。瀬尾さんの作品はいつも、人との繋がりって何だろう?という問いかけに、
さらりと優しく答えてくれているような気がしますね。


以降、それぞれの感想を少しづつ。

「優しい音楽」
ヒロインの言動には最初戸惑いを覚えたものの、主人公と彼女の会話が少しづつ親密になって
変わって行く所が良かったですね。そしてラストの演奏シーンは感動的。彼女の家の秘密を
知った上で、こういう行動に出られる男性はそうはいないと思います。彼の涙ぐましい
努力が素晴らしい。いい男だなぁ。

「タイムラグ」
3作中一番好きかもしれません。父親の愛人と一晩過ごす小学生。とんでもない状況だし、
この状況を作った父親には嫌悪感しか覚えないのですが、結果的に二人が仲良くなる経過が
爽やかに描かれていて好きですね。瀬尾さんの作品にはいつもキーとなる食べ物が出てくる
ことが多いのですが、今回は主人公の深雪が作る焼き芋とスイートポテト。読んでてお腹が
空いてしまいました(笑)。ラストの二人の会話も未来を感じさせて良かったです。

「がらくた効果」
これは珍しく出てくる登場人物(3人だけだけど)全て好感が持てました。いい加減なようで
いて、実は根がまじめな章太郎、おおらかで適当なだけで生きて来たようなお調子者のはな子、
そしてその中に突如入り込んで来たリストラされた大学教授の佐々木。人生の落伍者でも
ある佐々木が、章太郎とはな子に豊富な知識でいろんなことを教えるくだりはとても良かった。
それを素直に感心して受け入れる二人もいいなぁと思いました。佐々木さんのキャラは特に
良かったなぁ。こういう、人生経験豊かな老人の知識というのは絶対尊重されるべきもの
だと思います。路頭に迷った老人を切り捨てたりせずに面倒みる二人に好感が持てましたね。
佐々木さんの今後がどうなるのかはちょっと気になります。どうやって生活するんだろう・・・。

心が優しくなれるような爽やかな作品でした。ちょっと疲れた時なんかに読むと癒される
かもしれません。荒唐無稽なミステリの後などに是非いかがでしょうか(笑)。