ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

海堂尊/「ナイチンゲールの沈黙」/宝島社刊

海堂尊さんの「ナイチンゲールの沈黙」。

東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する看護師・浜田小夜は、毎年恒例の忘年会で
歌を唄い、桜宮大賞を受賞した。その帰り際、友人の如月翔子と通りを歩いていると、奇妙
な男に出会い、ある女性歌手のライブに誘われた。不審に思う小夜だったが、翔子がその歌手
のファンだった為、なしくずしにライブに足を運ぶことに。そのライブでは衝撃的な展開が
待ち受けていた――このミステリーがすごい!第4回大賞受賞作「チームバチスタの栄光」の
田口&白鳥コンビ第2弾。

前作とは随分作風を変えての第2弾です。今回の舞台は小児科病棟。子供の病気、しかも
重病なので尚更、読んでいてやるせなかったです。特に今回の病気は眼の癌ということで、
罹っている子は近い将来視力を失うことになる。こんな病気があるなんて。読んでいて、
自分が視力を失った時のことを考えてしまって、怖くなりました。大人だって怖いのに、
それが幼い少年に降りかかるなんて。手術をすれば眼が失われる。手術をしなければ
命が失われる。こんな二者択一は辛すぎますね。視力を失った後に待っている永遠の闇。
それを考えると、生き永らえることに疑問を感じるのも無理はない気がしました。
そうした病気を抱えた子供たちに対する病院のケアというのは本当に大事だと思います。

今回腹が立ったのは、そうした病気を抱えた子供たちの主治医・内山聖美の責任感のなさ。
こんな医師を主治医にする病院側にも問題ありという気もしますが、とにかく自分のこと
しか考えていないような彼女の言動にはうんざり。どぎつい香水や化粧には仏の心で百歩
譲ったとしても、患者の親への手術の説明や同意書にサインをもらうという大事な任務を
放置して、自分のプライベートを優先させるというのは、人の命を預かる立場の医師の行動
としてはあまりにも無責任すぎる。確かに彼女の訴える、「医師側だってプライベートは
大切にしたいし、休みだって欲しい」という気持ちもよくわかります。仕事をしている
人間ならば誰だってそう思うでしょう。もちろん、病院側は、そういう医師側の立場も
ケアしていかなければいけないとは思います。でも、自分の本来の仕事を忘れて、権利ばかり
主張するような医者ならいない方がいい。自ら進んで医者という職業を選んだのならば、
人として一番大事なことを忘れてはいけないと思います。医者というのは、患者の生命を
守る為に存在しているのだから。権利を主張するのは、ちゃんと自分の職務を全うして
からにして欲しいと思いますね。

今回、ミステリとしてはかなり質が落ちた気がします。事件の真相はほとんど途中で
見えてしまいました。もしかしたら真相は違うのかも、と思って読み進んで行ったのですが、
そのまんまだったという・・・。どちらかというと、どうやってその犯罪を暴き出すか、という
方に焦点を絞ったとも云えるのでしょうが、その課程が専門用語だらけで分かり辛く、何が
言いたいのか分からない部分がたくさんありました(私の頭の問題とも言えますが^^;)。
小夜や冴子の歌声の設定もどこかファンタジックになってしまい、現実の事件にそぐわない
気がして、読んでて妙な違和感を感じてしまいました。前作が良かっただけに、全体的に
ちょっと気負いすぎてしまったかな、という印象でした。

田口、白鳥コンビは健在で良かったですけどね。今回白鳥の天敵も出て来て、あの白鳥が
苦手とする人間がいたというだけでも胸がすく思いでしたけど(苦笑)。それにしても、
白鳥に奥さんや子供がいるとうのが信じられない。一体家庭ではどんな父親なのだろう・・・。

まだまだ続きそうなこのシリーズ。今後は一体どういう方向に行くのでしょうか。