ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中島望/「クラムボン殺し」/講談社ノベルス刊

中島望さんの「クラムボン殺し」。

おにこべ学園の小学校教諭をしている七浦陽子は、部屋に帰った瞬間奇妙な違和感を
覚えた。朝閉めた筈のカーテンの隙間がほんのわずかだけ空いていたのだ。その4、5日
前にも、留守中の部屋から冷蔵庫に貼ってあったマグネットが一つ無くなるという出来事
があったばかりだった。世間では「眼球抜き連続事件」が騒がれている。誰かに見られて
いるという不安に駆られた陽子は、探偵の新島に身辺警護と調査を依頼する。一方、陽子の
勤める学園では、学年主任の鈴木光代が首を切断された死体で見つかり、更に第2の猟奇殺人
事件が――格闘系作家・中島望、初の本格ミステリー。



※犯人は明かしてませんが、ややネタバレ気味です。ご注意下さい。





う~ん、一応ミステリの体裁を取ってはいるのですが、やはりカラーは中島さん。最後は
お決まりの格闘技も飛び出してなかなか楽しめました。ただ、ミステリとしてはやはり
まだ甘いかな~という感じ。小学校の連続殺人事件の犯人はほぼ途中でわかってしまい、
眼球抜き事件の方の犯人も終盤で検討がついてしまった。小学校事件の方はある人物に
スリードするように仕掛けているのでしょうが、私は騙されなかったなぁ。ただ、
構成的には猟奇殺人事件に校歌見立て殺人事件に叙述トリックまで絡ませてかなり力の
入った構成。それに何故か妖怪ちっくな設定も加わって盛りだくさん。個々の描写は結構
エグイので、グロテスクものが苦手な人は気分が悪くなるかも。暴力描写なんかは容赦の
ない表現で嫌悪感を覚えそうなのですが、何故か中島さんのスピード感のある筆致だと
受け入れられてしまうんですよね。それにしても、この方はミステリを書いても結局最後は
格闘技ものになるんだなぁと思いました(苦笑)。
殺人鬼ヒャクメルゲの身体の謎の部分だけ何故か非現実的で、その謎を知ったヒロインの
反応もそんなに大きくないのが不思議だったんですけど。普通もっと怯えたりするんじゃ
ないのか・・・?昔深夜にやっていた京極さん原作の単発ミステリドラマ「目目連」を
思い出してしまいました。想像するとかなり気持ちワルイ・・・^^;

題名になっている「クラムボン」はもちろん宮沢賢治の短編小説「やまなし」に出て
くる名文「クラムボンはわらったよ。かぷかぷわらったよ」のあのクラムボンです。
私も小学校の時に授業でやりましたね~。クラムボンって何なの?ってやつ。とても
想像力を書き立てる作品ですよね。答えが永遠に謎っていうのがまたミステリアス。
泡だとかミジンコの一種だとか、様々な説がありますが、真相は何なんでしょうね。
ただ、この作品にこの‘クラムボン’がそんなに重要なファクターかというと、そんな
ことはないです。結構題名で手に取った人には肩すかしを食うのではないかな。この
題名をつけた所に中島さんの狡猾な計算高さがあるような気もします。「やまなし」を
学んだ人なら内容気になって手に取る人がいそうだもん。

何はともあれ、全体的にはなかなか面白かったです。メフィスト賞出身の中島さんらしい遊び心
も文中に覗かせたりして、ミステリファンの心をくすぐる作品です。ただね~、あのラストは
どうなんだ?新島の最後をああいう形にしなくても良かったんじゃないのか?葉月との
関わりも中途半端なままだし。その続きが読みたいですよ、私は。