ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

日向旦/「世紀末大(グラン)バザール 六月の雪」/東京創元社刊

日向旦さんの「世紀末大(グラン)バザール 六月の雪」。

1999年5月。ノストラダムスの大予言まであと2ヶ月。世界滅亡を祈るアナーキスト
本多巧は、スーツケースに全財産を詰め込み、大阪の街を目指した。そこで、とあるお好み焼屋
で奇妙な二人組に出会い、意気投合した末、仕事を紹介してもらうことになる。二人に「何が
できるのか?」と聞かれ、とっさに「探偵」と答えてしまった巧は、探偵として家出した二人の
中学生を捜す羽目になる。早速調査に取り掛かるが、奇妙な事件が二つも起き、単なる家出少年
捜しだけではすまない雰囲気に。雇われ先はおかしな商業施設兼住宅のモールになっており、
そこでは独特の人間関係としがらみが形成されているようなのだ。一体ここは何なんだ!?
第15回鮎川哲也賞佳作入賞作のユーモアミステリ。

いや~、なんなんでしょう、この作品。面白くなかった訳ではないのですが、何故か私には
文章が頭に入って来ず、作品自体に入り込むのに非常に時間がかかってしまいました。
ユーモアミステリだし、語り口も軽妙といえると思うのですが、読みにくい印象ばかりが
残ってしまった。文章が下手だとか肌に合わない表現があるとかそういうこともなかったのに、
それでも合わない文章ってあるんですねぇ。あとは設定自体に疑問を覚える所が多かったという
のもあります。世紀末である必要性も感じなかったし、それぞれのキャラ設定も分かり辛くて、
誰が誰なのか確認しないと意味がわからなかったり。そもそも、主人公が大阪へ行く経緯も
説明不足で全く説得力がないので、違和感ばかりを感じてしまった。

ただ、ラストまで読むとモールの真の意味はわかるし、それぞれの伏線が繋がっている辺りも
よく出来ているとは思いました。途中で出てくる密室の謎解きに関しては、既存の小説の
トリックをそのまま流用して解決してしまうので、鮎川哲也賞を意識して読み始めた人には
かなりの肩すかしを食うのでは。巻末の山田正紀氏の解説でも、選考時に一番物議を醸した
のがその点だったと書かれています。基本的に鮎川賞は本格ミステリの賞なので、本格とは
到底云えない本書に賞を与えて良いのか、焦点はそこにしぼられたとか。鮎川賞ではなく、
このミス大賞あたりに応募した方が大賞をもらえたのかも。

全体的に違和感覚えまくりの文章ではあったのですが、途中の源さんとモール誕生秘話の
部分はとても面白かったし、感動的でもありました。この秘話がラストの解決の伏線になって
いる辺りはなかなか上手いな、と思いました。
でも、好きか嫌いか、と聞かれると、微妙・・・って感じかなぁ。前半部分は本当に挫折しかけ
ましたからね・・・。
ただ、一読するに値する本ではあると思います。ちなみにこの回の鮎川賞、大賞は該当なし。
本格ミステリでない本書が唯一佳作受賞したことを考えても、力作である証明になると云える
かもしれません。
不思議なユーモアミステリが読みたい方は、是非お手に取ってみて頂きたいです。