ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山之内正文/「八月の熱い雨 便利屋 < ダブルフォロー > 奮闘記」/東京創元社刊

山之内正文さんの「八月の熱い雨 便利屋 < ダブルフォロー > 奮闘記」。

24時間迅速対応、法に触れたり、人に迷惑をかける依頼以外は何でも引き受ける便利屋
< ダブルフォロー >を一人で営む皆瀬泉水。25歳で彼女いない歴も25年。ある日、事務所兼
住まいのアパートに20歳の若い女性・朝倉亜季が依頼にやって来た。彼女の祖父が最近大好き
だったバイクを手放し、それ以来元気がなくなり引きこもりになってしまった。理由を聞いても
何も話してくれない。だからその理由を探って欲しいというのだ。泉水は早速調査を開始する
のだが・・・(「吉次のR69」)。便利屋家業で出会う奇妙な謎と向き合う泉水の奮闘記を
集めた連作短編集。ミステリフロンティアシリーズ。

いかにもミステリフロンティアっぽい設定と雰囲気の連作集でした。それぞれの出来はかなり
微妙という感じですが、全体を通して優しい雰囲気とキャラクターに好感が持てました。
特に泉水の母親がいい味出してましたね。いかにも肝っ玉母さんって感じ。ちゃきちゃき
していていいですねー。便利屋という設定も面白いです。探偵とは違って、かなり下らない
依頼なんかもある訳ですが、それがいかにもローカル地域で営んでいる雰囲気が出ていて
良かった。犬の散歩とかチケット購入、芝刈り、庭掃除・・・自分でも出来るけど、なんとなく
面倒だなぁと思えることを引き受けてくれる人がいたら・・・。かなり便利ですよねー。

ただ、先にも述べましたが、一つ一つの話を拾って行くと、どうもどの作品も今一歩詰めが
甘いような印象でした。面白くない訳ではないのですが、どこかちぐはぐな感じがして据わりが
悪いというか。表題作の「八月の熱い雨」なんかも題材はいいのに、それが上手く調理出来て
いない感じがしました。家出少年と不良少年たちの関係もなにかすっきりしなかったし。
泉水の職業が探偵ではなく便利屋であり、普段のミステリのように颯爽と謎解きをして解決する
というパターンではないだけに、なし崩しに真相がわかるタイプの小説だからかもしれません。
ラストの「約束されたハガキの秘密」の真相は唯一後味が悪かったです。郵便将棋という題材は
とても面白かったのですが、事の真相はあまりに切ない。それでもそれをふっきるようなラストの
依頼人の行動には救われた思いがしましたが。普通は許せないような気がするけど。

キャラと設定は良いので、書きなれてくるともっと面白くなるかもしれません。辛い真相でも
最後には少し救いがあるラストで、読後感は爽やかでした。
ちなみに本書の著者メッセージを読んだら、便利屋 < ダブルフォロー >の名前の理由は泉水が
便利屋を始める時に友人と二人で立ち上げたことから由来するそう。二人でフォローする=
ダブルフォローだそうな。でもその友人はいざ便利屋開業の時に逃亡して旅に出てしまったらしい。
これは本書にも出て来ないサイドストーリー。いつかこの友人の出てくる続編もお書きになるそう
なので、そちらも楽しみにしていたいと思います。