ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

蒼井上鷹/「二枚舌は極楽へ行く」/双葉ノベルス刊

蒼井上鷹さんの「二枚舌は極楽へ行く」。

久々に集まった大学の同期生の飲み会。メンバーはおれと理子、前田に沼村。以前はそこに
亡くなった沼村の妻・玉恵もいた。玉恵の葬儀から半年、久々に集まったおれたちの前で、
沼村がとんでもないことを言い出した。「さっき配ったジュース、玉恵を殺した犯人にだけ
毒を盛った。解毒剤が欲しければ自白しろ」というものだ。沼村の視線はおれを見ている・・・
まさか、おれを疑っているのか!?(「野菜ジュースにソースを二滴」)
蒼井上鷹が送る傑作コージーミステリ、ショートショートも含め12編を収録。


前作「出られない五人」で著者に失望した為、ちょっと身構えて手に取りましたが、今回は
デビュー作「九杯目には早すぎる」に負けず劣らずの出来。やはりこの著者は短編を書いた
方が良いのではと再認識しました。今回はどれもひねりが効いていて面白かった!間のショート
ショートが絶妙の味付けをしていて、「九杯目~」同様ぴりりと効いたスパイスになってます。
それぞれの短編が微妙~に繋がっているのも面白い。ただ、これも全てが繋がっている訳ではなく、
繋がり方もそれぞれ違っているので、ちゃんと読んでないと読み過ごしてしまう可能性大。その辺り
のわかりにくさは「九杯目~」でも感じたので、著者の作風なんでしょうけど。どうせならもっと
徹底してリンクさせるとかした方が、ラストで感心できると思うんですけどね。その辺りの詰めの
甘さが読後に消化不良の印象を与えてしまうかも。
あと、ショートショートの中にはオチがいまいちわからなかった作品も多かったです。私の
読みが甘いせいでしょうか・・・。わかる人には「おお~」って作品なのかもしれませんが。

短編はどれもなかなかの出来ですが、好きだったのは「ラスト・セッション」ですね。この真相
は切ないけれど、一番ミステリらしくて好きです。あと表題作「二枚舌は極楽へ行く」は一番
蒼井さんらしい皮肉な作品。真相はやや下品ですが、このひねりと毒は若竹さんに通じるものが
あると思いました。しかし、極楽で数の子のように干からびた舌の干物が落ちている図はかなり
想像するとグロテスクでした・・・うう、日ごろの行いよくしなきゃ(ちなみに、日ごろ口先
ばかりで行動が伴わない人は、死んだら舌だけが極楽へ行き、他の部分は無間地獄に落ちる
と江戸時代の偉い学者さんが言っているんだそうな)。

ただ、一つ気になったのは、単語の誤用や助詞の誤字などがちらほら目に付いたこと。製本する
前に校正すると思うんですけど、チェックが甘いのでしょうか。初歩的な間違いなので、ちゃんと
直して出版して欲しい所ですね。

ところで蒼井さんの作品タイトルにはみんな数字が出てくるんですよね。今後もこのスタイルで
作品を出されるのでしょうか。短編・長編・短編と来たので、次はまた長編なのかなぁ。
どうも、長編よりも短編の方が向いてそうなんですけれど。次は一体どんな作品を書かれる
のでしょうか。