ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸/「中庭の出来事」/新潮社刊

恩田陸さんの「中庭の出来事」。

古いホテルの中庭のパーティの席で、ある芝居の脚本家の男が毒死した。周囲には
その芝居の3人のヒロイン候補の女優がいた。事件を担当する刑事は、3人の女優に
一人づつ話を聞いて行く。果たして自殺なのか他殺なのか。現実と芝居が錯綜し、
謎が謎を呼ぶ恩田陸の最新長編ミステリー。


感想が非常に難しいです。とにかく複雑。場面がどんどん変わって次々と登場人物が
入れ替わり、途中から読んでいて何が何やらわからない状態になってしまいました。芝居風の
ト書き部分が全て虚構なのかと思うとそうでなく、地の文が現実なのかと思うとそうで
なかったり。自分が‘こうだ’と思っているものが次々と壊されて行くカタルシス。まさしく
恩田陸の迷宮に迷い込んで出口がどこだかわからなくなっちゃう感じ。ラストは全てが繋がる
ような構造になっているのですが、はっきり云って私は繋がったのかどうかよくわかりません
でした。読む人によっては「???」だけが残ってすっきりしない印象を与えてしまうかも。
結局たくさん提示された謎が全て解かれた訳でもなく、気になる謎をたくさん抱えたまま
物語が閉じてしまうので。恩田作品に慣れた方ならば「これが恩田ミステリだ」と言わしめる
ような作品と云えるでしょう。

ただし、私自身がどうだったかと云うと、非常に面白かったです。最初読み始めた時は「夏の名残の
薔薇」のような不可解な繰り返しの作品なのかと思ったのですが、3人の女優が同じ場面を自分
なりに演出して演じるという芝居形式の部分など、とても面白かった。そして、合間合間に
挿入される不思議な謎の部分も都市伝説っぽくて楽しめました。ただ、結局その謎が解かれない
のはやや不満が残りましたが・・・(敢えてなのでしょうけども)。せめて中庭で突然死した少女
の矛盾する表情の謎だけは曖昧な推理で終わらせるのではなく、きっちり明かして欲しかった所です。

それにしても、恩田さんの表現力というのはどうしてこうも魅力的なのでしょう。結局物語が
すっきり終わらなくてもいいと思ってしまうのは、恩田さんの文章読んでるだけで十分物語を
楽しめてしまうからなんですよね。情景描写や人物描写など、時折本当にはっとさせられる
表現があったりする。しみじみいいなぁと思ってしまう。ただ、たまには全てがすっきりする
直球の本格ミステリを書いて欲しいなぁと思っているのですけどね・・・。本書はミステリと
云えばミステリなんですが、どちらかと云うと1本の演劇の脚本を読んだというのに近いです。

読み終わった後は不思議な感覚に包まれます。私が読んだのは小説なのか脚本なのか。
登場人物は役者なのかそうでないのか。最後の最後までわかりません。
人物関係も非常に複雑なので、一つ一つ整理して読まれた方が良いかも。
チョコレートコスモス」に続いてまたも演劇を題材にした作品ですが、恩田さん自身は
演劇をやった経験はないらしいです。是非芝居の脚本なんかも書いてみて欲しいなぁ。
ただ、きっと恩田さんが書いたら不条理劇みたいなのになりそうですけど^^;

とても読みやすいのに、とても複雑な小説です。恩田流、謎が謎を呼ぶ迷宮のスパイラル。
是非この感覚を味わってみて頂きたいと思います。