ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森絵都/「アーモンド入りチョコレートのワルツ」/講談社刊

森絵都さんの「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。

いとこの少年たちだけで過ごす海辺の別荘でのひと夏の体験を綴った「子供は眠る」、不眠症
悩む少年が偶然潜り込んだ旧校舎の音楽室で出会った少女との淡い恋模様を描いた「彼女のアリア」、
風変わりなピアノ教師が教えるピアノ教室に通う二人の少女と、そこに現れた奇妙なフランス人
のおじさんとの可笑しくも切ない体験を描いた「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。
シューマン、バッハ、サティの調べに乗せて送る切なくて優しい珠玉の短編集。


森絵都さん、初めて読みました。普段ミステリというジャンルに拘って読む本を選んでいる
私にとって、自分からは絶対に手に取らないであろうタイプの作家さん。でも、ある方の
ブログで紹介されていて、ずっと気になって読んでみたかった本でした。

で。もう、良かった。これは、ものすごい私好みの作品でした。まず文章が良い。読みやすい
だけではなく、情景描写や多感な年頃の少年少女の心の動きが実に巧みに描かれています。
特に、「彼女のアリア」の主人公が少女を探して音楽室を目指す終盤の場面はとても良かった。
少しづつ少女に近づいて行く臨場感と、少年の逸る気持ちが手に取るようにわかって、読んで
いるこっちまでどきどきしてしまいました。
そして、3作共通のテーマであるクラシックの名曲の存在。これがまた物語にぴったりと
はまっていて、作品の雰囲気を一層魅力的なものにしていて良かったです。以下それぞれの
感想を。

「子供は眠る」
横柄で嫌なやつだと思っていた章君の本当の姿にじーん・・・。そして彼が聴かせるシューマン
子供の情景」を必死で最後まで聴こうとする主人公の健気さにまたノックアウト。ほんわかと心が
あったかくなるような読後感でした。

「彼女のアリア」
作品としては一番好きです。ちょっとベタな少女マンガっぽい展開ではありますが、主人公の
心の動きが非常に丁寧に描かれていて、作者の表現力に感心しました。虚言癖のある子というのは
現実にも結構いると思いますが、彼女の嘘は悪意がないし、純粋に人を楽しませるという意図から
出ているものなので嫌悪感は全くなかったですね。むしろ嘘をつくことで必死に自分を保とうと
している健気さが哀れでもありました。ラスト、報われて良かったなぁ。

「アーモンド入りチョコレートのワルツ」
作品と音楽の融合という点では一番優れているように感じました。奇妙だけれど愉快なおじさん
という設定が、いかにもサティの音楽と合っていて良かった。サティの音楽って、どこかいびつ
で奇妙だけど、聴いてると楽しくなってくるという印象なので。しかし、「サティおじさん」の
ラストはちょっと拍子抜けでしたが。その辺りのずっこけ具合が、やはりサティなのかな~と
思ったり。サティ、聴きたくなりました。

どの作品も、実際使われている音楽を聴きながら再読してみたいです。また全然違った魅力が
見えるような気がします。
なんだか、またしても無性にピアノの音が聴きたくなってしまいました。
これはさっき見てたのだめの影響もあるかもしれませんけど^^;;
児童書の体裁をとっている本書ですが、大人が読んでも全く遜色ない作品でした。
爽やかで優しくて切ない、素敵な作品集でした。


最後に、この作品を紹介して下さったれおぽんさん、どうもありがとうございました!
森絵都さん、大好きな作家になりそうです^^