三津田信三さんの「厭魅の如き憑くもの」。
昭和三十年代、人々が畏れる山神の‘カカシ様’信仰がはびこる辺境の村、神々櫛村では、
憑き物筋である谺呀治家と非憑き物筋である神櫛家の二つの旧家が対立していた。谺呀治家
では、代々祈祷者を育て、憑き物落としを生業としていた。現在の祈祷者である叉霧巫女と
娘の紗霧親子の御祈祷や憑き物落としは村人たちに評判を呼んでいた。しかし、ある日神櫛家
の十七歳になる千代の憑き物落としの儀式の際、紗霧に憑いた山神様から奇妙な言葉が発せ
られる。いつもと違うこの儀式を皮切りに、紗霧の生霊が村を徘徊するのが目撃されるように
なる。神櫛家に育ちながらも村の因習を忌み嫌う連三郎は、この怪異に疑問を覚えつつも自ら
その怪異を体験するに当たり、自分の信念が揺らぎ始める。そんな中、谺呀治家で叉霧の弟である
勝虎が死体で発見されたことを契機に、次々と不可解な人死が連続して起こる。それぞれの死体
には奇妙な装飾が施されていた。取材に訪れた幻想小説家の刀城言耶は、次第にこの不可解な
惨劇の渦中に巻き込まれて行く――。
年末の忙しい時期に読み始めた為、予想外に時間がかかってしまいました。民俗ホラーと
本格探偵小説を見事に融合させ、横溝正史の世界のようなおどろおどろしい雰囲気を全体に
漂わせた非常に私好みの作品でした。ただ、やたらにたくさん出てくる漢字違いの‘サギリ’
さんや、二つの旧家の人物関係など非常に複雑で、しかもそこに薀蓄満載の民俗学知識が
絡んで来るので、常に混乱との戦い。細切れに読んだ為、混乱は更に混乱を呼び・・・。
ましてや、そこに作者の仕掛けた巧妙なトリックが隠されているとなると、もう、何が何やら。
謎解きを読むと非常に良く出来た作品だとわかるのですが、とにかく頭を整理しながら
読まないと真相を見抜くのは難しいのではないでしょうか。私は謎解きなどは始めから放棄し
(オイ)、場面場面を頭に思い浮かべて追うのが精一杯という感じでした。ただ、始めにも
述べましたが、全体に流れるぞくぞくするホラーテイストや、基本となる< カカシ様 >の
民俗学的考察など、非常に興味深く、魅力的な作品でした。ただ、この手のジャンルに興味
のない方が読むと、途中かなり退屈を覚える作品とも云えるかもしれません。
この辺りの助長さは続編の「凶鳥~」でも共通していますが、作品の複雑さで云うと、こちらの
方が上のような気がします。複数の人間からの視点で書かれており、最後の最後の謎解きで
これが利いてくる訳なのですが、途中ちょっと読みにくかったのも確か。これから読まれる方は、
今読んでる文章が誰の視点なのか整理しながら読まれると良いのでは。謎解き部分に関しては、
言耶が提示する真相が次々と破られて行き、何が何やらわからなくなったところに、最後の
最後で明かされる真相にびっくり。最後に付記された言耶の解説で非常に上手く繋がって
いることがわかるのですが、はっきり云って、途中の文章読んでる時点でこれに気付くのは
無理じゃないのかなぁ・・・(私が馬鹿なだけ?)。なんとなくアンフェアって気もする
のですが。騙された、という点では文句なしなんですけど。
文章自体は読みにくいという感じはないのですが、やたらに時間がかかってしまい、作品を
十分楽しめずに謎解きまで進んで行ってしまったのが残念。もっと時間の取れる時に一気読み
した方が雰囲気を楽しめたかも。細切れに読んだので民俗学的薀蓄がさっぱり頭に入って来な
かったのも痛かった。まぁ、もともと理解できる分野でもないのですけど(頭悪っ^^;)。
それでも、本格探偵小説がお好きな方には是非読んで頂きたい一冊です。あとは高田崇史さんの
QEDシリーズや、北森さんの連丈シリーズなどの歴史や民俗学的なものがお好きな方も興味
深く読めると思います。ホラーテイストですが、そこまで怖くないので、ホラーが苦手な人
でもぎりぎり大丈夫ではないかな~(多分)。
既に読んでしまった続編も非常に好みだったので、このシリーズ、これからも追いかけて行きたい
と思います。