ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

荻原浩/「なかよし小鳩組」/集英社刊

荻原浩さんの「なかよし小鳩組」。

倒産寸前の零細広告代理店・ユニバーサル広告社に勤める杉山。毎年が経営危機、毎月が
自転車操業、毎日が綱渡りのこの会社に、ある日CI(=企業イメージ統合戦略)の仕事
が舞い込んだ。願ってもないこの大仕事に社員一同小躍りするが、クライアントは何と
ヤクザの小鳩組だった。そこからバツイチ・子持ちのフリーライター杉山を始め、社員たちの
奮闘が始まった・・・!涙と笑いの痛快コメディ。


なんと、奇しくも極道小説二連発になってしまいました。しかし、本書に関してはほとんど
何の予備知識もないまま、題名と可愛らしいどピンクの表紙に惹かれて借りたので、まさか
ヤクザが出てくる小説だとは・・・。という訳で偶然です。決して私がヤクザ小説に
はまってしまった訳ではありませんので(苦笑)。

まずユニバーサル広告社の社員たちのキャラクターがいいですね。主人公の杉山は子持ちの
バツイチにしてアル中気味のダメ男。でも、仕事と娘の為に少しづつ自分を変えて行く課程
がとても良かったです。そしてラストでのあの走り・・・とても切なく胸を打たれました。
娘の早苗がまたいい味出してます。屈託なく天真爛漫なようでいて、母親の病気のこととか、
ラストで杉山と別れなければならないということとかもちゃんと見抜いていて、実はとても
達観した聡明な子。まぁ、杉山を見て育ったのだから、反面教師的な所もあったのでしょうけど。
同じ社員の村崎や猪熊、社長の石井などの面々もそれぞれキャラクターが立っていて、楽しませて
くれました。また、クライアント側の小鳩組の中では、急遽設立された宣伝部を任された河田と、
ラストで重要な役割を課せられる若造の勝也が良かった。河田と猪熊のやりとりがなんだか
笑えました。ちょっと河田が気の毒になりましたが。勝也と杉山が黙々とマラソンの練習を積み
ながら少しづつ心を開いていくくだりも良かったですね。勝也には最後まで走ってもらいたかった
なぁ。

それにしても、小鳩組がユニバーサル広告社にCIを依頼した本当の理由にはびっくり。
ありえない~!と思いつつ、これこそがコメディだ!と思いました。後半のプレゼンテーション
の中身はある意味ファンタジックでさえありましたが(苦笑)、真剣にたこ焼きを作る石井
や、みんなでガングリオンの主題歌を大合唱する辺りなど、本当に面白可笑しく楽しい作品
でした。でも、この作品の一番の読ませどころはやっぱりラストのマラソンレースの部分
でしょうね。子供を思ってひたすら走る杉山の姿がとても感動的でした。アル中・ヘビー
スモーカーのダメ中年親父がやたらに格好良く思えました。早苗ちゃんはこの父親の勇姿を
一生忘れることはないでしょうね。でも早苗ちゃんが最後に叫ぶ父親へのエールが胸に
痛かったです・・・。ドタバタコメディものと思っていたらば、最後でこんな涙が
隠されていようとは。あなどれません、荻原さん。

初・荻原さんでしたが、それぞれのキャラクターのドタバタぶりが楽しく、そしてラストは
ちょっと切なくホロリとさせてくれる良作でした。
しかし、これ、どうやら続編らしいですね・・・まぁ、大して繋がりのある話ではないよう
なので問題はなさそうですが。
とりあえず、1作目も探そう!と思いました。
巷で大流行(?)の荻原さん、みなさまのオススメは何でしょうか。
ご助言、お待ちしております(他力本願^^;)。