ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「片眼の猿」/新潮社刊

道尾秀介さんの「片眼の猿」。

私立探偵をしている俺は、ちょっとした特技を持っている為、この業界では有名人だ。
新しいクライアントは谷口楽器。依頼内容は、ライバル社である黒井楽器が自社の楽器
デザインを盗作している疑いがある為、その証拠を見つけて欲しいというものだった。
そこで俺は中途採用者を装って谷口楽器に入社し、日々黒井楽器本社ビルに聞き耳を
立ててはその結果を報告しているのだ。そんなある日、いつものように黒井楽器内部に
聞き耳を立てていると、とんでもない場面に出くわしてしまった。これは一体どういう
ことなんだ――!?


あまりいい評判を聞いていなかった為、期待せずに読んだら今回もまんまとやられて
しまいました。巧妙に張り巡らされてた伏線が素晴らしい。殺人事件の犯人だけは
なんとなくの印象で当てられたけれど、それ以外の部分ではほとんどいい意味で裏切られ
まくりでした。ラストの真相を読むまでは、三梨の才能を考えるとややファンタジー色が
強いのかな、などととぼけた感想を持っていたのですが・・・ああもう、アホだな、私。
というか、上手すぎる、道尾さん。ローズ・フラットの面々に関しても、すっかり騙され
たし。ああ、確かに伏線めいたものはありましたよ。いくつも。でもこれを言い当てるのは
私では無理だ~^^;;もちろん秋絵さんに関してもやられましたねぇ・・・。三梨が秋絵
さんの実家に行った時の両親の反応に疑問を覚えていたのですが・・・真相を知ってすっきり。

そして、ローズ・フラットの住人たちがみんな個性的。彼らの真実の姿を知ると切ない気分に
なるけれど、それを払拭するような明るさがとてもいい。
完成度としては「シャドウ」に及ばないかもしれないけれど、読後感やキャラクター、
作品の雰囲気はこちらの方が好きかもしれない。ダイヤのエースのラストが好きですね~。
三梨には是非実行してもらいたいところです。ローズ・フラットの楽しい面々には是非
また出会いたいです。彼らの抱えるコンプレックスは、普通の人が持つものとは比べ物に
ならない位深刻で、生きて来た中でもたくさん嫌な出来事に遭った筈です。でも、そういう
コンプレックスを全然感じさせない彼らのあっけらかんとした明るさがすごい。
彼らのような生き方に共感を覚え、救われる人がきっといると思う。
「片眼の猿」というテーマはとても考えさせられるものがある。でもその答えがローズ・
フラットに住む人々に繋がっているのだと感心させられました。三梨のラスト1ページの
行動にも拍手を送りたい。コンプレックスを逆手に取って胸を張って生きること。それが
どんなに難しく、素晴らしいことか。彼が身を持って教えてくれたように思いました。


結論。やはり道尾秀介はすごい!!
きっとこの真相にはみんな騙されるはず。ますます道尾さんが好きになった一冊でした。