ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦/「太陽の塔」/新潮社刊

森見登美彦さんの「太陽の塔」。

私は休学中の京大5回生という、大学生の中でもタチの悪い部類に属している。そんな私が
大学を休んで勤しんでいるのが、「水尾さん研究」である。水尾さんとは、私のかつての
「恋人」であり、可愛く知的で奇想天外で実に魅力的な女性なのだが、あろうことか
私を袖にした問題の人物なのである。私は「彼女が何故私のような人間を拒否したのか」
という疑問の解明をするべく、交際時から始めていた彼女の研究を続行することにした。
そんな訳で、日々彼女の行動を観察しては研究資料を作成する毎日を過ごしている。そんな
ある日、いつものように彼女の部屋の前で彼女が戻るのを待っていると、駐車場の暗がり
から奇妙な男に「警察を呼ぶぞ」と脅される。どうやら、彼女の新しい恋人のようなの
だが――。京大男の壮大な妄想を描いた傑作青春小説。第15回日本ファンタジーノベル
大賞大賞受賞作。


くくく。たまりません。この絶妙なる文章。主人公のどこまでも広がって行く妄想。主人公
を取り巻く周囲の面妖な人物たちもみんな個性的で愛すべきバカばかり。「夜は短し~」で
経験したあの読書中のにやにや笑いがまたしても・・・。はっきり云って主人公の行動は
ストーカー以外の何者でもないですが、それを敢えて「研究」と言い張るところが可笑しい。
大学行かないで何やってんだよ!とツッコミたくなりましたが、くだらないことを真剣に
取り組む辺りが京大生ブランドの名とはかけ離れていて面白かった。実際の京大生がこれ
読んでどう思うかはさて置いて・・・(苦笑)。

一番おかしかったのは主人公森本とライバル遠藤とのやりとり。もう、アホ過ぎて。でも
ゴキブリキューブのくだりは読んでいて気が遠くなりかけました。うわ~やだやだやだ。
今思い出しても鳥肌が・・・ぞぞぞ。私の最も憎むべき昆虫をあんな形で報復の材料に
使うなんて。もし自分がやられたらと思うと・・・何よりダメージを受けることは間違い
ないです。今だって、たった1匹をこの世から葬り去るのに泣きながら瀕死の思いで戦って
いるのに・・・怖いよ~夢に出てきちゃうよ~^^;;でも遠藤の仕返しで再び登場した時
は、再び気が遠くなりかけつつも「おのれ遠藤!」に笑ってしまった。っていうか、普通
開ける前に気付くだろ・・・。

ラストの「ええじゃないか騒動」まで行くと、正直ちょっと引いてしまったのですが、
この小説は日本ファンタジーノベル大賞だったことを思いだし、なるほど、あの展開は
ファンタジーかも、と思い直しました。
ほぼ全篇に亘って主人公の男くさい妄想で終始している為、単調と云えば単調な話なので
ダメな人はとことんダメかもしれません。
でも私はこのアホさ加減がツボでしたね~。文章がとにかく面白くて好きです。すっかり
森見ファンになってしまいました。

それにしても、ヒロインの水尾さん。森本の語りの中でしかほとんど登場しないけど、相当
変わっていて面白い。森本の誕生日に「人間臨終図鑑」を贈るって・・・一体どんな人物
なんだ^^;っていうか、一体どんな内容の本なの、それ?(笑)
外見上は確かに「夜は短し~」のヒロインと雰囲気が似ているかも。性格は大分違うような
感じですけど。水尾さんメインで作品を書いて欲しいですよ。絶対オモチロイと思うけど。

現在森見強化月間遂行中。なので、手元に「四畳半神話大系」もあるのだ~。
楽しみ、楽しみ。