ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川浩/「レインツリーの国」/新潮社刊

有川浩さんの「レインツリーの国」。

向坂伸行は、ふと思い立って、中学時代に読んだライトノベル小説について調べようと
タイトルを検索にかけた。そこでひっかかったのが、「レインツリーの国」という個人
のブログに書かれた感想記事だった。その管理人の記事を読んで感激した伸行は、ひとみ
というその管理人にメールを出してみることにした。すると翌日思いがけず彼女から返事が
来た。嬉しくなった伸行は再びメールを書き――そこから二人のやりとりが始まった。次第に
メールの向こうのひとみに惹かれて行く伸行。そして、ついに二人が実際に会うことになって
――。図書館シリーズ第二弾「図書館内乱」の中に登場する作中作を書籍化。


えー、巷で大流行の有川さんに初挑戦。「何でこれから読むんだ!!」と大多数の有川
ファンからお叱りを受けそうではありますが、「だって図書館シリーズは人気でまだまだ借り
られそうにないんだもん。仕方ないじゃん!!」と開き直って、たまたま本日返却棚で発見した
本書を取りあえず試しに借りてみました。リンクはしてるものの、単独作品のようだし、
まぁいいか、てな感じで(適当)。

さて本書。なかなか面白く読みました。メールから始まる恋愛、というのはまぁ、ここ数年
割とよくあるテーマで、目新しさはなかったけれど、彼女の特殊な身体的障害を抱えつつ
の恋愛、という意味ではいろいろと考えさせられるものがありました。何より、ブログや
メールの文章から顔も見えない相手を想像し、恋に落ちて行く様子が非常にリアルで丁寧に
描かれていて好感が持てました。特に伸行の真っ直ぐでどこまでもバカ正直な性格がいい。
時には障害者のひとみを厄介に思いつつも、それでもやっぱり好きだという気持ちを
ストレートに表現する。メールであそこまで素直に自分の気持ちを表現できるものかなぁ
という気がしないでもないですが、それが関西人気質というやつなんでしょうか。障害者と
健常者との間の、どこまで行ってもなくならない壁をもどかしく思いながらも、真正面から
ぶつかって行く様は読んでいて気持ちが良かったです。ただ、素直になれないひとみの気持ち
もやはりわかる。わかるといっても、私はひとみのような障害を持っている訳ではないから、
本当の意味でわかるなんて言えないかもしれないけど。でも、コンプレックスを抱えた女性
が素敵な男性に対して引け目を感じて卑屈になってしまうという気持ちは理解できました。
伸行が書いた何気ないメールの一言に傷ついていつまでも引きずってしまうとか。女性は
好きな男性の一言一言に敏感なものです。

今後の二人にはたくさんの障害が待っていると思うし、その都度ぶつかって嫌な思いも
するかもしれない。それは本人たちが一番わかっていて、それでも「乗り越えて行きたい」
という二人の気持ちが清清しかった。続いて欲しいなぁと思う。諦めないで、乗り越えて
行ける二人だと信じたいです。

自分もブログを書いている身なので、ひとみのように自分の書いた感想で他人が感動して
もらえるってすごいことだと思う。同じ本を読んで、同じように感じる人がいるってだけ
でも嬉しいことだけど。自分が漠然と感じてたことを、上手く他の人が表現しているのを
読んだりすると、やはりそれはとても嬉しい。嬉しくて、ちょっと悔しい。自分にはその
表現方法がないって気付く瞬間だから。いつも文章で伝えることって難しいなぁって思い
ます。この本を読んで、とても身につまされる気がしました。精進しなきゃ。


蛇足ですが、ここの所やたらと恋愛小説を読んでいる気がする。苦手なジャンルな筈なのに。
しかも、二作続けてラストにヒロインが長かった髪をばっさりと切ってイメチェンする小説。
なんだか「お前もいい加減髪を切ってイメチェンしろ!」と暗に言われている気がした・・・。
いや、単なる偶然ですけどね・・・。

ちなみに私、この作者を「ありかわひろし(あるいは、こう)」と読んでいて、てっきり
男性作家だと思い込んでました。まさか女性だったとは・・・(またしても、大恥さらし)。
桜庭さんに続き、女流作家が最近勢いあるなぁ。