稲見一良さんの「猟犬探偵」。
北摂の能勢の三万五千坪の山林の中に建つ丸太小屋で、< 竜門猟犬探偵舎 > を営む
竜門卓。相棒の猟犬・ジョーと供に猟犬探しを専門にしていたが、ある日奇妙な依頼が
舞い込んだ。動物プロダクションから一頭のトナカイと供に失踪した少年の行方を追って
欲しいというのだ。竜門は依頼人の金巻と供に、少年の足跡を辿り、有馬温泉へと向かう
――(「トカチン、カラチン」)。心優しきアウトロー探偵・竜門卓が遭遇する4つの
事件を収録。
やっちゃいました。これ、シリーズの二作目だったんですねぇ・・・(涙)。まぁ、基本的
には一話完結の話なのでそんなに差し支えはなかったけれど、途中でちょこちょこ一作目の
「セント・メリーのリボン」でのエピソードが出てくるので、知らない身としてはちょっと
置いて行かれた感が・・・。この方は以前から気になっていて(本屋の文庫コーナーでも
注目作として紹介されたりしているので)、図書館で見かけたのであまり考えずにほくほく
して手に取ったのが失敗でした^^;
とても薄い本です。一話がだいたい50ページ位の短編なので、割とあっという間に事件が
起こって解決しちゃうという感じ。でもとても良かった。好きです、これ。短いだけに
事件はあっさり解決しちゃうし、しかもその探偵法もなぜかいつも素人に協力してもらったり
して、探偵としてどうなの!?とも思う部分もありましたが(苦笑)、事件に関わる人物と
なぜか心を通わせてしまう竜門の人柄と読後感の良さがとても魅力的。唯一、ラストの「悪役
と鳩」だけはとてもやるせない終わり方でしたが。でも、全ての事件が大団円を迎えるわけでは
ない、という苦さを残す終わり方もありなのではないかと思いました。正直、天童のキャラが
とても良かっただけに、できれば違う終わり方にして欲しかったという気持ちは強いのですが。
前に出て来た人物がその後の作品にも登場したりするのも嬉しかった。どの作品にも必ず魅力的
なキャラが登場するので、一話限りといのはちょっと寂しい。依頼人とその後も関係を続ける
のはやっぱり竜門の人柄ゆえでしょう。この温かい人間関係が読んでいてとても心地良い。
心がほっこり温かくなったり、胸がじーんとしたり、切なくなったり。本によって感じたい
感想をたくさん抱かせてくれる作品たちでした。それぞれ、短編にしておくのは勿体ないような
設定だなぁと思いました。
犬たちとの関係も良かったですね。相棒のジョーは格好良いし。それにしても猟犬って
いろんな種類がいるんですねぇ。名前も知らない犬がいっぱい出てきました。普通の犬探し
じゃなくて、‘猟犬’専門っていうところが面白いですね。
悔しいのはやっぱり竜門が何故猟犬専門探偵なのかがよくわからなかったことですね。これは
早く「セント・メリー~」を読まなければ!!
稲見さんはもうお亡くなりになっているのですね。なんだかとても残念な気持ちです。
短いのでとても簡単に読めるけれど、とても密度の濃い作品でした。他の作品も読もうっと。
ちなみに作者は「いなみ・いつら」さんと読むそうですよ!(もちろん、初めて知った・・・^^;)