ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳原慧/「コーリング 闇からの声」/宝島社刊

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柳原慧さんの「コーリング 闇からの声」。

死者が出た部屋の後処理を行う‘特殊清掃屋’を生業としている純也と零。死者の後を
残さぬよう徹底的に洗い流し、消臭し、部屋をまっさらな状態にしてクライアントに引き渡す
仕事を請け負う。ある日、彼らはアパートの風呂場で溶けて死んでいた女・津島恵美の部屋の
清掃を行う。帰り際、霊感の強い純也は、浴室の中に残っていた恵美の生前の姿を < 見て >
しまう。自室に帰り、ネットサーフィン中に偶然に「津島恵美」の名前を発見した純也は、
次第に零と供に恵美の死の謎を探り始める――。第2回このミステリーがすごい!大賞受賞
の作者が贈るサイコサスペンス。


本屋で表紙を見た瞬間「これは好みかも!」と思っていた本書。ぱっと見とても耽美で
美しいのだけれど、よく見るとめちゃくちゃグロテスク。こういうのに弱い。これは
表紙買いする人結構いるのではないでしょうか(私は図書館だけど^^;;)。もともと
柳原さんはこのミス大賞から追いかけているので好きな作家ではあるのですけれど。
参考までに表紙の画を載せておきますね。いかにも私が好みそうでしょう?ひとみさん(笑)。

で中身はどうかというと、のっけから死体の後処理描写が出て来て、これがこの先も延々
続いたらちょっと嫌だなぁと思ったら、そうでもなかったです。ただ、それとは別のグロテスク
さがこの作品にはたくさん盛り込まれています。特にこの作品のキモとなる美容整形の描写。
女性の飽くなき美への追求とその陰に潜む落とし穴。これは本当に怖い。純也が視えてしまう
という幽霊なんかよりもよっぽどその部分に寒気を感じました。そして、事件の裏にいる、ある
人物の凄まじいまでの狂気と悪意。もう理解の範疇を超えています。淡々と自分がしたことを
述べる姿は、まさしく‘現代の悪魔’のような怖さがありました。

物語の展開はかなり安易な感じもするのですが、読みやすい文章と畳みかけるような場面
展開で退屈することなく読み終えました。一つ一つの設定には詰めの甘さを感じる部分もある
ものの、途中に挟まれる主人公と脇役キャラたちの心の交流が心地よく、全体的には
面白かったです。純也の純粋なキャラがいいなぁ。零のホストっぽいところもいい。
っていうか、主役二人のこのキャラと関係は、ボーイズ小説系を狙っているのか!?と思わない
でもない・・・(いや違うと思うけども^^;)。

こうしてブログをやっている身として、純也のネットに対する考え方はとても共感できました。
私も家に帰って来て、パソコンを開いて自分の記事にコメントがあると、とても励みになります。
「こうやって誰かと繋がっているんだなぁ」と思えるのはなんだかとても素晴らしいことのよう
に感じます。でも、確かに消そうと思えば一瞬で消せる架空世界。いい面、悪い面、両方あり、
上手く付き合っていかないと取り返しのつかないことになりかねない。恵美のように。手軽で
便利だからこそ、怖い面もあると考えさせられました。

現代社会が生んだ闇が垣間見える作品でした。
それにしても、死体の跡清掃なんて仕事は絶対にしたくないな・・・。