藤谷治さんの「恋するたなだ君」。
愛車の‘ろんぽう君’を走らせて見知らぬ町に迷い込んでしまったたなだ君。そこで彼は
歩道を歩いていた後姿の女性に一目惚れしてしまう。彼はその女性を追って、ある建物の
通用口に辿り着く。そこは金の布袋様が祀ってある、その町で一番大きなホテルだった。
奇妙な町の奇妙なそのホテルで過ごした二日間は、たなだ君にとって人生で二度と起こり
得ない奇異な出来事の連続だった――奇妙で可笑しいファンタジックラブストーリー。
beckさんの所で紹介されていた本書。あの「夜は短し歩けよ乙女」に通じるものがある
と聞いたら、これは読まねばなるまい!と手に取ってみました。
なる程なる程、確かに似ています。妄想パワー炸裂のたなだ君に、不可思議な街の設定、
恋する君。一見設定だけ見るとファンタジックでほんわかしているように思うのですが、
内容は案外ハード。たなだ君は泥棒に間違われて投獄されちゃうし、恋する君の境遇も
複雑だし、いろんなトラブルにいちいち巻き込まれてしまう。ただ、大変な目に遭っても
へこたれない、たなだ君の愛しい女性への一途な頑張りを見ていると、ついつい応援したく
なりました。行動はやっぱりストーカーに近いのですけれども^^;知らない街に迷い
込んで奇妙な人や出来事に遭うという設定は、言ってみれれば現代版‘不思議の国のアリス’。
ずっと白昼夢を見ているかのような現実感のない世界は、ラストで更に仰天の結末を
迎えます。これぞまさしく‘ファンタジーの世界’。それでも、たなだ君の恋の結末
だけは実に現実的。でも読後感はとても良かったです。出てくる登場人物がみんな善人
だからかもしれません。真黒も悪キャラにしては愛嬌があって、憎めない人物だし。
なんだかとてもほのぼのした雰囲気が全体に漂っていて、ほんわかしちゃいました。
森見さんほど奇抜さが突出してない感じはしますが、独特の世界観を持った作品で
あることだけは確か。ラストで出て来た人物(!?)にはとにかく仰け反りましたが^^;
この部分に関しては賛否両論あるかもしれないなぁ。唐突といえば唐突だし。でも
このキャラ、私はなんだか気に入りました(笑)。
たなだ君は身長186センチ、体重70キロの大きな男性。読んでいてあまりその
長身の設定は生かされてなかったように思うのですが、私の知人にも同じ位の身長の
男性がいるので、ちょっと重ねて読んでしまいました(苦笑)。性格は全然違いますが^^;
たなだ君が恋する女性・まばさんは、ちょっと捉えどころのない感じでしたね。基本は
クールなんだけど、ラスト辺りで急にキャラが変わったような気も・・・。‘まば’って
一体どんな字を当てるんだろ?本名なのか、ただの呼び名なのかもわからなかったですが。
beckさんがおっしゃるように、「夜は短し~」が気に入った方には是非読んでみて欲しい
作品です(ちなみに、刊行は本書の方が先)。面白かったですよー。
紹介して下さったbeckさん、ありがとうございました^^
しかし、後姿だけで一目惚れって、あり得るのだろうか・・・。