ミステリ読書録

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紅玉いづき/「ミミズクと夜の王」/電撃文庫刊

紅玉いづきさんの「ミミズクと夜の王」。

魔物が棲む森の中に、一人の少女が訪れる。額に332の刻印、両手両足には鉄の
鎖がはまっている。少女は自らをミミズクと名乗った。ミミズクは魔物の王と対面し、
自らを「食べて」と差し出す。幸せを知らない少女が出会ったのは、月の瞳を持つ、
美しき夜の王だった――第13回電撃小説大賞 < 大賞 >受賞作。


義兄に頼まれて図書館から借りて来た本書。ネット上で結構評判になっているらしいし、
面白いというので私も読んでみました。
うん。面白かった!奇を衒わず、ストレートの御伽噺という感じで、いい意味の王道を
貫いているところが良い。展開が安易すぎてつまらないと感じる人もいるかもしれません
が、私はこういうの大好き。登場人物もみんな温かい人物ばかりで、安心して読める感じ。
唯一人間の王・ダンテスは夜の王・フクロウと敵対する側ですが、人間的に酷い人物という
訳ではないので、悪役まではいかないし。ミミズクが魔物の森に来る前に出会った人々
との差があまりにも激しい気もしますが、そこは御伽噺、ということで。絶望しか与えられず、
感情のなかったミミズクが少しづつ‘人として’成長して行く課程が丁寧に描かれていて
良かったです。
個人的にはクロちゃんが大好きだなー。なんとも味わいのあるキャラクターでした。

読んだあと優しい気持ちになれる、とても温かいファンタジー。ラストの展開も王道中
の王道。予想した通りのお約束的な結末です。そこが良かった。全てが大団円。御伽噺は
こうでなくちゃ!いってみれば、これは夜の王フクロウと人間の少女ミミズクのラブファンタジー
です(途中全くそう思えない展開だとしても)。
フクロウとミミズクの身分の違いを考えると、二人の幸せの時間はとても短いかもしれない。
ミミズクがいなくなった後のフクロウのことを考えるとちょっと切ない。それでも、孤独な王が
たったひと時でも幸せを手に入れたことは良かったことだと思う。二人の時間ができるだけ
長くありますようにと願わずにいられない。

文章はいかにもラノベ調という部分もありましたが、それなりにしっかりしているので
あまり気にならなかったです。書きなれたら桜庭さん同様、化けるかもしれない。
デビュー作でこれだけの話が書けるのというのは素晴らしい。
まったく、最近のライトノベルは本当にあなどれないですね。

それにしても、‘電撃文庫’ってすごい名前だなぁ・・・。