ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂木司/「ワーキング・ホリデー」/文藝春秋刊

坂木司さんの「ワーキング・ホリデー」。

7月のある日、ホストクラブ『クラブ・ジャスミン』で働くホストのヤマトこと沖田大和
の元に、息子と名乗る小学生・進がやってきた。どうやら、遥か昔に別れた思い出の女性・
由希子との子供らしい。身に覚えのある大和は、家出をしてきたという進を夏の間預かる
ことにする。ホストクラブのオーナー・ジャスミンに、ホストのままいるのは進の教育上
良くないと諭された大和は、紹介された宅配便会社に就職することに。始めは進の扱いに
戸惑っていた大和だったが、次第に気持ちが変化して来て・・・正義感に溢れる元ヤンの
大和と、主婦並みに家事をこなすしっかり者の進。ひと夏の間に築いた、親子の絆を描いた
ハートフルコメディー。


やー、良かった。坂木さんの作品は、本当に読んでいて心が温かくなる。今回もたくさんの人の
‘情’に支えられたハートフルな親子の物語。面白かった!元ヤンだけど、妙に情に篤くて
正義感溢れる大和と、母子家庭に育ったせいか家事を完璧にこなす生活臭溢れる小学生・
進、二人のキャラがとにかく良かった。大和が少しづつ進に対して父性を感じてゆく課程
が実に丁寧に描かれていて、とても爽やかな気持ちになれました。進の為に、ホストから
あっさり転職して、全く正反対の宅配便のドライバー(しかも車ではなく、リヤカー^^;)
になり、文句言いながらもきちんと仕事をこなす大和の姿がとても好きでした。
進と触れ合ううちに、大和自身も成長して行き、終盤ではしっかりと‘親の顔’になって
いる。そして、ラストの夏の終わりと供にやってくる別れ。大和や進と一緒に胸がぎゅっと
締め付けられるような切ない気持ちになりました。でも、二人の絆の強さはきっとこの先も
大丈夫。坂木さんらしい明るい未来を感じさせる清清しい終わり方で、読後感もとても
良かった。
つかあわせのパセリ、大和の「これも野菜だ」という言葉を聞いて、私もいつも残して
しまう人間なので、耳が痛かったです。「食べ物を粗末にしちゃいけない」という、ごくごく
当たり前の、普通の人間ならば誰でも幼い頃に諭され、それでも大人になるにつれて忘れて
しまう大事なことを、きちんと実行している大和は偉い。きっと大和にそれを教えたおじいちゃん
は素敵な人だったんだろうな。坂木さんの作品は、普段忘れているけど、とても大切なことを
たくさん教えてくれるところがとても好きです。

今回ももちろん素敵な脇役キャラ満載。クラブ・ジャスミンのオーナー・ジャスミンさん(♂)
は本当に言動が粋なマダム(!?笑)だし、ホスト仲間だった雪夜さんもカリスマホストなのに
優しくてかっこいいし、お客のナナちゃんもいい娘だし、ハチさん便の仲間たちもみんな
情に温かい素敵な面々ばかり。坂木さんの作品らしく悪い人が全く出て来ない。読む人に
よっては、ある意味ファンタジックな世界のように取られてしまうかもしれないけれど、
私は坂木さんのこういう優しい目線が大好きです。みんながみんな一人で生きてる訳じゃない。
支えあって生きている、繋がっているんだって感じられる温かい世界。そういう安心できる
世界が、物語の中だけでもあるっていうのは、やっぱり救われる気持ちになる。特に貫井さんの
殺伐とした作品を読んだ後では(苦笑)。どちらが現実かと言われると辛いところではある
けれど。坂木さんの世界が、どこにでも広がっている世の中になって欲しいなぁと、願わずに
いられません。ありゃ、話が逸れてるか^^;


初めて出会った親子のひと夏を綴ったとっても素敵な一冊です。坂木ファンなら絶対必読!
ほのぼの作品を求めている方にも自信を持ってオススメします。
坂木さんのお仕事シリーズ、はずれないなぁ。

あ、一瞬だけ「新井クリーニング店」が出て来たのも嬉しかった!やっぱり坂木ワールド
は繋がってるんですね~^^