ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「ちんぷんかん」/新潮社刊

畠中恵さんの「ちんぷんかん」。

江戸一繁華な通町一帯が火事に包まれた。廻船問屋兼薬種問屋長崎屋もひとたまりもなく
炎の餌食になった。離れに寝起きしていた長崎屋の一人息子・一太郎は煙を吸い込み意識を失い、
とうとう三途の川を彷徨うことに。一太郎は、供についてきた鳴家たちだけは現世に返してやりたい
と、その方法を探し始める(「鬼と子鬼」)。その他、若き日のおっかさんの恋物語や兄・松之助
の縁談を巡る騒動など、5編を収録。大人気しゃばけシリーズ第6弾。


前作で死にそうな目に遭った一太郎。一作ごとにハードになってゆくこのシリーズ、一太郎
体力がもつのか非常に心配しておりましたが、何と今回はのっけから三途の川を彷徨う羽目に。
ついにここまで来たかと苦笑しきり。三途の川でもお人よし全開の一太郎の言動が微笑ましくも
ちょっといらいら。もっとしっかりしないとほんとに死んじゃうよー!!と叱り飛ばしたく
なりました(苦笑)。まぁ、そういう所が若旦那の良い所なんですけどね。極上に甘やかされて
育った割に、他人にも限りなく優しい一太郎だからこそ、両親や兄やたちを始めとする妖怪たち
に愛されているのですから。「病弱だから働かせてもらえない」ことを嘆くような真っ当な
精神、今のニートたちに見習って欲しい所ですね^^;

今回好きだったのは一太郎の母・おたえの若き日の恋物語を綴った「男ぶり」とラストの「はる
がいくよ」。「男ぶり」は、おたえが好きになった辰二郎の情けなさとは対照的に、現在の
一太郎の父・藤吉の不器用な優しさがとっても素敵だった。私もこの二人だったら断然藤吉を好き
になっちゃうなぁ。
「はるがいくよ」は、桜の妖しである小紅の美しさと儚さ、一太郎の寂しさ、悲しさが相まって
とても切ない作品でした。先に逝くものと後に残されるもの。より悲しいのはどちらだろう。
一太郎は神の庭に行くこともできた。それでも、彼は人間としての生を全うすることを選んだ。
それは近い将来の別れを意味するのかもしれない。もしかして、シリーズの最後は一太郎が命を
落とすのかも・・・なんて不吉なことは考えない、考えない。三途の川に行っても戻って来れる
しぶとさがあるんですからね。案外、妖しから丈夫な身体になる薬を手に入れたりして病気が
治ったり・・・なんてそこまで上手くはいかないかー^^;
それでも、まだまだこのほのぼのした世界を堪能したいですからね。一太郎にはまだまだ頑張って
もらわないと!

あ、もちろん、鳴家には今回も激萌えでした。ぎゅわわー!