ミステリ読書録

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篠田真由美/「風信子(ヒアシンス)の家 神代教授の日常と謎」/東京創元社刊

篠田真由美さんの「風信子(ヒアシンス)の家 神代教授の日常と謎」。

東京・本郷にあるW大文学部・西洋美術史の教授・神代宗の自宅に届いた箱の中に
入っていたのは、精巧に造られた家屋の立体模型と、「君にこの謎が届けられるかな?」
というメッセージ。模型の中には、稚拙な造りの紙粘土人形が背中にナイフを突き刺した
状態でうつぶせに転がっていた。そして、模型の中の全ての窓やドアは施錠されていた。
メッセージに書かれていた‘佐藤正彦’の名前を頼りに、神代はこの謎を探り始める
――(「風信子の家」)。≪建築探偵≫桜井京介の恩師・神代宗が遭遇する4つの事件
に、書き下ろし掌編一作を収録。


建築探偵シリーズのスピンオフ作品。京介の恩師・神代教授をメインに据えて、彼が
体験した事件をまとめたもの。あとがきによると、本編一作目の「未明の家」より数年前
1991年6月から1992年の2月という時代設定。という訳で、蒼はまだ子供だし、
京介・深春は大学生だし、神代教授もまだまだ若いです。神代教授が主役の割に、ほとんどの
作品、彼は推理をしていない。
表題作の「風信子の家」は京介、二話目の「夢魔の目覚める夜」は深春、三話目の「干からび
た血、凍った涙」は蒼、ラストの「思いは雪のように降り積もる」は、神代教授の旧友・
辰野が推理するかもしくは解決のヒントを与える立場にいる。要するに、教授自身はミステリの
謎を解く名探偵にはなれないということなんでしょうね。あくまで彼が巻き込まれた事件
を描くシリーズのようです(三話目はほとんど蒼が主役ですが^^;)。相変わらずミステリ
としては弱いです。今回、純粋な『殺人事件』を扱ったものは一つもないし。まぁ、もともと
このシリーズ、本編でもミステリとしてはそんなに期待していないので、主要キャラたちの
日常が垣間見えたというだけで楽しめました。神代教授は渋くてかっこいいですからね^^
この本の副題の「神代教授の日常と謎」、ブログの記事では出せないのだけれど、「と」の部分に
強調の点(`)がふってあるのです。だから、作者自身も教授の日常に謎がくっついて来た、
というような意味合いでとってもらいたい作品なのではないかと推察します。
神代氏の蒼に対する溺愛っぷりも読んでいて微笑ましい(完全に‘孫’を見る祖父の目に
なってます^^;)。教授と京介と蒼。彼らの関係は擬似家族かもしれない。でも、彼らの
心の繋がりは血の繋がりよりも濃いもののように感じます。彼らの過去は決して幸せなもの
ではなかったけれど、こうして出会ったことで確実に幸せの形を築いている。彼らの関係は
ちょっと読んでいて羨ましい。

本編を読んでなくても基本的には大丈夫ですが、やはり登場人物の関係がわかっていた方が
楽しめるでしょうね。神代教授好きならば是非読んで欲しい一冊(ヤフーブロガーさんではあまり
読まれてる方がいないようですが^^;)。もちろん、このシリーズらしく、いろんな建築
も出て来ますよ^^

一つ不満は挿入されている挿絵。何かイメージ違う~^^;こんなんだったら挿絵なんて
入れない方がいい気がする・・・。しかくのさんというイラストレーターさんらしいけど、
ちょっと絵が古臭い・・・(好きな方がいらしたらゴメンナサイ^^;;)。