ミステリ読書録

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桜庭一樹/「青年のための読書クラブ」/新潮社刊

桜庭一樹さんの「青年のための読書クラブ」。

東京・山の手のお嬢様学校、聖マリアナ学園。二十世紀始めに修道女聖マリアナによって
建てられた伝統ある女学校である。良家の子女たちが通うこの学校の片隅には、代々異端児
たちが集う『読書クラブ』が存在した。そこには、代々の部員たちによって学園の正史から
抹殺された事件が綴られた秘密の『クラブ誌』があった――。


桜庭さん新刊です。今回は山の手のお嬢様学校を舞台に繰り広げられる奇妙な事件を綿々と
綴ったもの。出てくる登場人物はまた奇抜で独特。不可思議な雰囲気が漂う学園小説。
一話ごとに語り手が変わり、時代も現代に近づいて行き(学園の創始者であるマリアナ
話が二作目に充てられていますが)、ラストでは現代を飛び越えて2019年の学園で
起きた事件が語られます。その都度その都度、『読書クラブ』には奇妙な人物ばかりが
集まり、学園中を巻き込む事件を起こす。

・・・とまぁ、こんな話ですが。冒頭の烏丸紅子の話では「キター!」って思いました。
実に桜庭さんらしい人物設定で、美少女なのに庶民の異臭をぷんぷんさせてる紅子とか、
天才的な頭脳を持っているのに不細工なアザミとか。アザミによる紅子王子化計画という
筋立ても面白くて引きこまれました。続く二話のマリアナの話も、兄と妹に起こるある
現象にはびっくりしたものの、それなりに面白く読みました。が、その後の三作。正直、
奇抜さだけが突出してしまい、面白いと思えなかった。この学園のほとんどの生徒が
女生徒であるにも関わらず「ぼく」の一人称なのにも首をかしげてしまった。この手の
女学校ものには必ず一人は自分を「ぼく」と呼ぶ人物がいるであろうことはわかるのですが、
ほぼ全員が自然に「ぼく」で話し、青年のような話し方をするのが理解できなかった。ここ
までする必然性があったのかどうか。多分あったんだろうけど、何か作品世界に入っていけない
自分がいました。

いつもは桜庭さんの独創的な設定がとてもいいと思うのに、後半の作品に関してはそれが
度を超して鼻についてしまった感じがしました。230ページくらいのページ数としては
少ない位の本なのに、いつもよりも時間がかかってしまったのも、どうにも物語に入って
行けず、読みづらかったせい。いつもは先が気になって仕方ないのに、この作品に関して
はそれがなかった。
ネットで作者のインタビューを見たところ、「普遍的な少女が書きたかった」という言葉
があったのですが、ここに出てくる少女たちが普遍的だと言われるとちょっと首を傾げざるを
得ない。
確かに、本書に出てくる女生徒たちはみんな現実の恋愛よりも、学園における‘ヒーロー’
である青年(=少女)を求めているという意味ではどの時代も変わらないのかもしれないけれど。
年に一回選出する学園の‘王子’選びに一喜一憂するなんてのも、いかにも女学校っぽい
ですし。ただ、私は女子高に行ったことがないからこういう宝塚的な世界ってどうも引いて
しまう。好きな人はたまらない世界だと思いますが、私には合わなかった。宝塚とかが
好きな人には多分はまる作品なんでしょうね。文芸を題材にしてるんだけど、いかにも
ラノベの世界。「櫻の園」の世界と言った方がいいのかな。多分すごく桜庭さんらしい
作品なんだろうけど、私が求めている桜庭さんのいい意味での‘突き抜けた奇抜さ’では
なく、‘奇抜さだけの’作品になってしまっていたところが残念でした(烏丸紅子の話は
前者に近かったのだけど)。

ただ、言葉の選び方とか、作中に出てくる引用なんかには相変わらずかなりの文章センスを
感じました。多分この人はほんとにたくさん本を読んでるんだろうな。
装丁はとてもいいですね。よく見ると女の子たちが書いてあるのですね。ミント色と黒の
コントラストが綺麗。影絵のようです。
桜庭さんにはきっとまだまだ引き出しがあるんでしょうね。次に期待します。