ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦原すなお/「山桃寺まえみち」/河出書房新社刊

芦原すなおさんの「山桃寺まえみち」。

大学生のミラは、具合の悪い祖母の代わりに大学を休学して居酒屋「福乃」のおかみに
なることに。お店には、酒屋の息子の睦郎、不倫をしている美女の高梨さん、高梨さんの
友達の樽木青年、高梨さんの不倫相手の内海さんと、いろんな人々がやって来る。ミラと
居酒屋に集まる面々との交流を賑やかに描いたユーモア溢れる快作。


先日読んだ「カワセミの森で」で登場した女子高生・ミラちゃんの大学生のお話。出版
はこちらの方が大分早く、この単行本版はすでに絶版扱いのようですね。図書館でも閉架
行きという可哀想な扱いに^^;
いやぁ、愉快、愉快。軽妙な会話文に大いに笑わせて頂きました。どの人物もとぼけた
味があって、もちろん一番とぼけたキャラのミラちゃんとの絡みが最高。ミラちゃんの
いい加減な料理も、なぜかやたらに美味しそうに感じるのが不思議。かつお節入りの
マヨネーズ入りカルボナーラはともかく、ミラちゃん考案の「グラナダ・ポテト」は
実際に作って食べてみたい!と思う位美味しそうでした。やっぱり芦原さんはお料理の描写が
とても上手い。読んでるとついついお腹が空いてしまうのが難点^^;
愉快なだけの作品かと思ったら、後半はちょっとホロリとさせる部分もあります。大好きな
祖母の死、高梨さんの自殺騒動。ミラちゃんのさばさばした対応がとても好き。心の中では
高梨さんをちゃんと信じてあげているのがわかったから。ラスト1ページがとても良い。
特に最後の一行では、ミラちゃんの意外な面が見れましたし。

今思い返すと、「カワセミ~」読んだ時に父親の存在って全く意識してなかったんですね。
母親のキャラが強烈すぎて。本書読んで、あれ、こんな設定だったんだっけ?とびっくり
しました。「カワセミ~」の時点では母親は再婚している筈だから、義理の父親の存在が
全く感じられなかったのが意外でした。そういえば居酒屋を経営している祖母だって出て
きたっけ??ついこの間読んだばかりなのに、全然思い出せないのが悲しい^^;今度
確認してみなければ・・・。実の父親と再会した時の態度がとてもミラちゃんらしくて
微笑ましかったです。普通こういう態度は取れまい・・・。それにしても、父親の正体
にはびっくり。そ、そんな馬鹿な・・・。

こんな楽しい作品が絶版とは一体どういうこと!?文庫にもなったようですが、こちらは
まだ出版されているのだろうか・・・??
どんな人物に対してもとぼけた態度を取るミラちゃんだけど、そこにはちゃんとその人への
愛情と優しさが感じられる。やっぱりミラちゃんは最高だった。こんな可愛らしくて愉快な
おかみがいる居酒屋ならば絶対通いたいです。変てこな料理も我慢して食べる!(笑)

とても愉快で爽快で、そしてちょっぴりラストはほろりとさせてくれる芦原さんらしい
一冊でした。お薦めです!