ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

北山猛邦/「少年検閲官」/東京創元社刊

北山猛邦さんの「少年検閲官」。

そこは何人も書物を所有してはならず、検閲によるラジオ放送だけが許された世界。英国人の
少年クリスは父が潜水艦の中で死亡して以来、失われた「ミステリ」を求めて一人、旅を
続けてきた。辿り着いた場所は日本のとある小さな町。雨宿りの空き家で出会った車椅子の少年
ユーリの家が宿屋と知り、泊めてもらうことに。そこでクリスはその町で最近相次いで起きている
奇妙な事件の話を聞く。町のあちこちに残された赤い十字架のような印や首無死体は「探偵」
の仕業だというのだ。クリスは、奇妙な事件に巻き込まれて行く中で、事件解決の為に派遣された
「少年検閲官」のエノという少年と出会う――。ミステリフロンティアシリーズ。


北山さんはメフィスト賞受賞作の『「クロック城」殺人事件』を読んで以来でした。いまひとつ
文章が好みでなくその後手が出ていなかったのですが、本書はミステリフロンティアということで
かねてから読みたいと思っていた作品。

文章は以前に比べて随分読みやすくなっているように感じました。ただ、基本的な設定が
どうも中途半端で入っていけない部分がありました。一番大きかったのは、この作風で何故
日本を舞台にしなければいけなかったのかという点。主人公は英国人だし、日本人でも全て
カタカナ表記。しかもほとんどの人物が日本名ですらない。宿泊施設は『宿屋』だし、道は
煉瓦敷きだし、どこにも日本的なものが見受けられない。建物も日本家屋風な家の表記がほとんど
出て来ないし。書物が失われているから漢字が出て来ないのはわかるとしても、ユーリが漢字の
勉強をしていることから、廃れている訳ではないことがわかる。どうにも設定がちぐはぐ。
この作風で書きたいならば、舞台設定は普通に海外か、架空の都市でよかったのでは。
無理矢理戦後の日本のパラレルワールドにした意味がよくわからなかったです。
「失われたミステリ」を探す旅という設定はとても好きなんだけどなぁ。何か「惜しい」という
世界観でした。

そして肝心のミステリ部分。これは、どう考えても無理がある。あくまでも○(ネタバレの為
フセ字)に拘った点は評価しても良いけれど、一つ一つの解決に説得力がなさすぎる。だって、
○と幽霊を見間違える?赤い十字が書かれた理由にしても、○○が必要だったからって、そんな
バカな。○○を△に(あー、わけわからん^^;)するなんて無理があるし。なんじゃ、そりゃ
って感じでした。これはある意味バカミスに近いんじゃないかなぁ・・・。もっとおバカなのは
首無殺人の理由。人間から○が作れるのか?!というよりも、そういう発想が普通の人間から
出てくるかどうかという点で、あまりにもリアリティがないように感じました。ただ、ここ読んでて
少し前に観た映画「パフューム」のあるシーンを思い出しました。うう、グロテスク・・・。
これは相当に肩透かしを食らった解決でした。うーむ。

ただ、主人公クリスと少年検閲官エノのコンビはなかなか良かった。エノのクールなのに片付け
られない大雑把な性格なんかは面白い。二人の会話は結構好きでした。クリスのチョーカーは
思った通りのものだったのだけれど、結局それが何かがわかっただけで直接物語には関わって
来なかったのが残念。これは続きがあるということでしょうか。クリスは旅を続けて、
きっとまたいつかエノと出会い事件に巻き込まれるのでしょうね。

ミステリとしてはあまり評価できないけれど、ファンタジックな世界観が好きな人には
はまる一冊かもしれません。