ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

はやみねかおる/「消える総生島」/講談社青い鳥文庫刊

はやみねかおるさんの「消える総生島」。

映画のイメージガールに選ばれた亜衣、真衣、美衣の三つ子姉妹。撮影は鬼の伝説が伝わる
孤島・総生島で行われるという。無理矢理ついて来た夢水清志郎探偵と供に、島に建つ『霧越館』
へやってきた。しかし乗って来た船が爆破され、電話線も切られ、外界との連絡が取れない状態に。
そんな中で、主演女優が突然姿を消してしまう。後には鏡に書かれた「ひとり、つかまえた」
の文字。そして、窓の外には見えていた筈の山までもが消え去っていた――犯人は伝説の鬼?
名探偵夢水清志郎シリーズ第三弾。


夢水シリーズ三作目です。このシリーズはもう安心して読めますね。夢水探偵のアホさ加減
にはだんだん拍車がかかっているような気もしますが^^;「ばななはおやつに入るのか」
っていう、子供たちにとって永遠普遍の問いかけを真剣に悩んでいる姿はまさに子供そのもの。
そんな精神年齢の人が、謎を解く時だけは誰よりも大人になって、みんなが幸せになれる
解決を導き出す。そのギャップがたまりません。

今回の舞台は絶海の孤島。クローズドサークルものです。孤島に建つ館の名前が『霧越館』。
始めに建築を依頼した建築家が中村青司だったりと、まさしく綾辻さんの館シリーズを意識
して書かれた作品と云えるでしょう。トリック自体はさほど驚く程ではなく、だいたいの
見当はつけられてしまいましたが、こういう大掛かりなトリック自体は割と好きなのでなかなか
楽しめました。館建築にかかった費用がいくらなんでもかかりすぎだとは思っていたのですが、
謎解き読んで納得。金持ちはやることが違うなぁ。

でも、トリックがどうとかいうよりも、本書にもやはりこのシリーズらしいメッセージ性を
感じました。今回印象に残ったのは亜衣、真衣、美衣の三人と執事の波虎さんとの会話。

「ねぇ、戦争ってどんなだったの?」と聞く美衣に対して、波虎さんは体験した戦争に
ついて語ります。自らの辛い過去を語りながら、波虎さんは最後にこう締めくくる。

「日本が昔、アメリカをはじめ多くの国と戦ったことを知らない世代もふえてきました。
しかし、かつて戦争があったという事実は、消えないのです。戦争で死んだ者も悲しいし、
戦争で生き残った者も悲しい――戦争があったという事実は、いつまでたっても悲しい
んですよ。」


戦争があったという事実はいつまでたっても悲しい――本当にその通りだと思います。
波虎さんが願うように、戦争を知らない私たちのような世代の人間は、「何故戦争なんか
するんだろう?」と疑問に思う気持ちをずっと持ち続けなければいけないと思う。悲しい
過去は消せないけれども、悲しい未来を創らないよう努力することはできるのだから。

物語の最後で夢水探偵が本当の意味での犯人に言いたいことも、そういうことだったのかな、
と思いました。このシリーズならではの、夢水探偵の優しくみんなを幸せにする解決の仕方
はやはり素敵だな、と思いました。


でも、一つ不満をあげるならば、やっぱりレーチが名前くらいしか出て来なかったこと。
今回の設定じゃ仕方ないけど(夢水探偵だって無理矢理参加だし)、前巻からの流れで
いけば二人の展開に期待するでしょう。ちょっと肩透かしでした。くすん。次巻に期待
しよう。