ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「つくもがみ貸します」/角川書店刊

畠中恵さんの「つくもがみ貸します」。

江戸・深川にある古道具屋兼損料屋出雲屋。切り盛りするのはお紅と清次の二人姉弟。彼らが
貸し出す古道具たちはちょいと変わっている。生まれて100年以上経って妖と化した『付喪
神』たちなのだ。いたずら好きで世間話好きなおせっかいの妖怪たちが今日も出雲屋を引っかき
回す――ほんわか温かいお江戸妖怪謎解き噺。


畠中さん新刊です。予約に出遅れて13番目だったので当分回って来ないだろうと思って
いたら、思ったよりも早くてびっくり。やはり人気作は所蔵数が違うということですね。
ありがたや。

やー、これは良かった。実は前半読んでる時点ではそれ程の評価でもなかったのです。確かに
付喪神たちは畠中さんらしい、愛嬌のあるキャラたちばかりで可愛いくて良かったのですが、
持ち込まれる謎と収拾のつけ方はそれ程感心するものでもなく、割と淡々とした作品だな
という印象でした。それに付喪神たちが決して人間たちと話をしないという設定もしゃばけ
シリーズに比べると妖怪との距離を感じてしまって、少し寂しかった。あくまでも‘神’と
なった位の高い妖だと思えば納得もできるのですが。ただ、頑ななまでに清次たちの発する
問いかけに答えない=コミュニケーションがとれない、というシーンにはやはり切ないものを
感じました。

それに、一番大きかったのは『蘇芳』にこだわるお紅さんの気持ちが最後の最後までわからな
かったこと。というより、最初の印象ではお紅さんはてっきり、いなくなってしまった佐太郎を
想って『蘇芳』にこだわっていたと思っていたから、清次の本心を知れば知る程、切なくて
気の毒になりました。
それが、まさかまさか、最終話でああいう展開になるとは!お紅さんの本当の気持ちが
わかって、快哉を叫びたくなりました。気風が良くてちゃきちゃきしたお紅さんはもともと
いいキャラだと思っていたけど、ラストでこんなに可愛い人だったと知って大好きになりました。
こんな予想外に素敵な展開になるとは思わなかったなぁ。付喪神たちがメインの話だと思って
いたけど、実はこっちだったのかぁ。うーん、やられた。しゃばけシリーズにはないむふふ
な展開でした。

それぞれの付喪神たちのキャラも個性的。しゃばけシリーズが好きな人ならば間違いなく
楽しめる一冊ですし、本書から畠中作品に入るのも良さそうです。連作短編で、最後に
きちんと収束されて一冊で完結しているので、読後もすっきりです。
この結末の後では続編も出にくいかもしれませんが、清次とお紅がその後どうやって
過ごしているのか、とっても気になります。愛嬌のある付喪神たちにもまた会いたいし、
是非シリーズ化して欲しいところです。