ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森絵都/「永遠の出口」/集英社刊

森絵都さんの「永遠の出口」。

私は、<永遠>という響きにめっぽう弱い子供だった。「永遠に~できない」――この一言を
聞くなり、私は息苦しいほどの焦りに駆られて取り返しのつかないロスをしてしまったかの
ような焦燥にかられるのだ。そんな私が駆け抜けてきた十代。友情、家族、恋愛――思春期
の揺れ動く少女時代を鮮やかに描く。


以前ホルスタインさんにお薦めされていた森作品。読もう読もうとずっと思っていて、やっと
手に取りました。

一言メッセージでも書いた通り、紀子の中学時代辺りまでは「まずい、合わない。どうしよう」
と焦燥に駆られました。森さんの青春もので、傑作って評判なのに、私はまたダメなのかー
と自分の感性を疑いました。でもでも、主人公紀子の性格が全く共感できなかったんだもの。
いろんなことに投げやりで、流されやすく、思い込みが激しい。特に中学時代のただなんとなく
非行に走って、家族に迷惑をかける紀子の性格には読んでいていらいら。自分ひとりで生きて
いるような、中学生ならではの身勝手な思考についていけなかった。

でも、これは紀子の成長物語でした。第6話の家族旅行の話は秀逸。家族は永遠に崩れない
ものだという思い込みが崩されるかもしれないと知った時の焦燥。ばらばらになりかけた家族が、
旅行をきっかけにまた一つになって行く。能天気な父も、真面目な姉も、家族の為を思って
行動していた。この事実を知って、頑なに家族と距離を置いていた紀子が、少しだけ成長
し、家族に歩み寄っていくところがとても良かったです。

高校ではバイトを通して、働いてお金を得ること、社会生活における人間関係、表面上
ではわからない裏での人間同士の諍いなど、また少し人間としての経験値を積んで行く。
紀子が少しづつ大人になって行くにつれて、物語にもどんどん引きこまれて行きました。

でも、保田君との恋愛は痛かった・・・。確かに、これやられたら男は引くでしょうね。
保田君の心変わりに必死で気付かないフリをして、彼のことを信じ続けようとする紀子が
哀れ。普通、主人公の恋愛をここまで粘着質に描いたりしないと思うのだけど、紀子の
思い込みの激しい面が如実に現れている部分だと思いました。十代の恋愛の記憶なんて
大抵青臭くてほろ苦いものだと思うけど、紀子のはほろ苦いというよりは痛い。それでも、
ラストの二人の会話に、爽やかな気持ちになれました。どろどろのままで終わらなくて
良かった。とても好きだった人との恋愛の記憶が思い出したくないものになってしまう
のはやっぱり悲しい。それまでの紀子の恋愛には全く共感できるところがなかったし、
保田君に対するストーカーまがいの行為にも正直引いてしまったけど、多分恋愛に関して
紀子は私なんかよりもずっと純粋で‘女の子’なんだろうな、と思いました。

ところで、第二章の「黒い魔法とコッペパン」。天海祐希主演のドラマ「女王の教室
とあまりにもシチュエーションが似てるのでビックリ。あのドラマ、これから取ったのか?
と思った程。独裁的な女教師に、クラスが一致団結して立ち向かって行く。おそらく、今
だったらこんな教師は保護者たちからものすごいクレームがつくのだろうけど、この時代
ならばどの学校にも一人はいたのかもしれないなぁ。

現在は中年にさしかかる年齢の紀子が過去の自分を振り返るという形式なので、時代背景は
昭和の時代を感じるものばかり。たのきんトリオが出て来たり、着る服がオーバーオールだったり、
電話はもちろん家庭電話のみ。私よりも少し時代は遡っているけれど、やはり昔を懐かしく
思い返しながら読みました。
始めは受け入れられなかった紀子の性格も、最後にはなんだか愛おしく感じられました。
どんな人間も、いろんな経験を重ねながら大人になって行く。たくさん回り道をしながら、
迷いながら。多分そうして「永遠の出口」を探して行くのでしょう。

森さんはやっぱり文章力が素晴らしいですね。何気ない会話や情景描写にどきっとさせられる
表現がたくさんありました。
二作続けて「合わない」作品じゃなくて良かった・・・(ブラックべるこよ、さようなら)。

ホルスタインさん、ご紹介頂きありがとうございました^^