ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「オチケン!」/理論社刊

大倉崇裕さんの「オチケン!」。

私立大学学同院に入学して早々、ひょんなことから廃部寸前の落語研究会に入部させられる
はめになってしまった越智健一。部員は落語の才能はあるが飄々として掴み所のない岸弥
一郎と、端正な顔立ちで爽やか好青年タイプだが押しの強い中村誠一の二人だけ。落語の
ことなど何もわからない越智は、二人の先輩に振り回されっぱなし。そんな中、学校公認
団体だけが与えられる部室を巡っての陰謀に巻き込まれて――ミステリYA!シリーズ。


やっと読めました。大倉さんがミステリYA!で落語ものを書く!と聞いては読まずに
いられない。早く読みたいなぁと思っていた所、新しい中央図書館のYAコーナーにめでたく
入荷しておりました。YAコーナーを作ってくれた新中央よ、ありがとう。
ということで、最も期待していたと云っても過言でないミステリYAシリーズ。
最近読む作品読む作品はずればかりだったので、どうかなぁと思っていましたが、
期待通りとても面白かった。
YA向けということで、取りあげている落語も一番基本でわかりやすいものばかり。
落語という世界を知らない若い世代(特に中高生)が読んでも楽しめる一冊だと思います。
きちんと謎解きでも落語が効果的に使われていて、ミステリとしてもなかなかの出来。
YA向けなので季刊落語シリーズと比べるとやや物足りない印象は仕方ないですが、
ミステリとしての骨子はきちんとしているので、落語入門ミステリとして若い人に
お薦めしたい一冊です。

個々のキャラクターがとても良いですね。飄々とした岸先輩や優しいけど押しの強い中村先輩
に振り回される越智君のキャラがとてもいい。お人好しで、自分の意思とは関係なく事件に
巻き込まれて行く性格は、「ツール&ストール」の白戸君を彷彿とさせます。
なんだかんだ文句言いつつも二人の先輩に惹かれて落研の為に行動する越智君に好感が
持てました。何より、越智健一という名前が最高ですね。もう、落研の為に生まれたような
名前(本人は否定するでしょうが(笑))。タイトルの「オチケン!」は越智君の名前も表して
いるのでしょうね・・・(笑)。早々に続編も決定しているようなので、次を読むのが楽しみ。

巻末の落語エッセイも興味深く読みました。そこで触れられていた都築道夫さんのなめくじ
長屋シリーズは今年お薦めされて読み始めた作品。まだ一作しか読んでいないので、ここで
出て来る6作目はもちろん未読ですが、全ての話が落語と関係していると聞いて是非読んで
みたいと思いました。そこまで到達するにはあと4冊読まなければいけませんが^^;
これを機に早く読み進めねばと思いました。
本格ミステリで「繰り返し」に挑んだ作品として西澤さんの「七回死んだ男」があげられて
いたのも嬉しかった。私としては初期の西澤作品の中でベスト級だと思っている位好きな
作品なので。


蛇足ですが、大学の時、私は華道会に在籍していまして、サークル棟の隣の部室を落語研究会
が使っていました。たまに共同で同じ部屋を借りる時があったのですが、落研の人たちって
ほんとに異様なオーラを放っていて近寄りがたかったんですよね・・・。結局一言も会話を交わす
ことなく学生生活を終えてしまったけれど、今となっては彼らの落語をきちんと聞いてみたかった
という気持ちでいっぱい。もしかしたら岸先輩のように天才肌の人もいたかも・・・(それはないか?)。
落語の面白いところは、世襲制ではないから、素人でも素質があればどんどん上に上っていける
所ですよね。まぁ、弟子入りする師匠にもよるかもしれませんが。私の大学の落研出身の人が
噺家になっていたら面白いなぁと思うんですが。いて欲しいなぁ。