ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

真瀬もと/「キューピッドの涙盗難事件」/理論社刊

真瀬もとさんの「キューピッドの涙盗難事件」。

19世紀末、ロンドン。世間では金持ちの邸宅ばかりを狙う‘黒薔薇の賊’と呼ばれる怪盗
が横行していた。名探偵シャーロック・ホームズの手伝いをする為結成されたベイカー街
少年探偵団の一員であるリアムは、ある晩ファリントッシュ邸のあるフィンチリー・ロード
で新聞紙に包まれた血のりのついた短剣を拾い、ファリントッシュ邸で起きたヴィーナスの冠
という名のティアラについている‘キューピッドの涙’と呼ばれるブラックオパールをめぐる
殺人事件に関わることに。事件を解決するホームズの手助けがしたい!とはりきるリアムだった
が――ミステリYA!シリーズ。


装丁が非常に好みだったので楽しみにしていたミステリYA!シリーズ。これは面白かった。
ホームズのパスティーシュものはつい先日五十嵐貴久さんの作品を読んだばかり。奇しくも
立て続け(という程でもないけど^^;)に読むことになりましたが、あちらとはまた違った
ホームズワールドの魅力に溢れる作品でした。
YAものということで、主人公リアムはホームズの調査を手伝うストリート・キッズ集団
‘ベイカー・ストリート・イレギュラーズ’のメンバーの一員。実際原典の方でも登場
する少年たちがいるようですが、何せ私はその‘聖典’の方を読んでおりませんので
どこまで実際の設定に基づいているかはわかりません。が、少年たちの力を借りて事件を
解決するというこの手の設定は非常に好きですね。
リアム以外のメンバーたちは今回はそれ程活躍しなかったけれど、どの少年もなかなかに
魅力的。また、イレギュラーズを去って行ったヴァル・レイや謎の古着王子(笑)エドワード
のキャラも良いです。特にエドワードとリアムのやりとりはかみ合ってない所がなんだか
微笑ましくて、くすりとできました。

殺人事件の方もとても良く出来ています。密室のトリックも差し出された手がかりから解決
できるよう工夫されていて(弱冠専門知識が要りますが・・・)、YA世代が読むミステリの
入門としてはとても良いのではないでしょうか。
文中で引っかかりを感じていた部分もラストまで読んでほぼ全てがすっきりしました。

今まで読んだYA!シリーズの中でもベストクラスの出来じゃないかな。この理論社のミステリ
YA!シリーズは、講談社のミステリランドに比べると完成度という点で劣るものが多いなと思って
いたのですが、本書はミステリランドのトップクラス作品と並べても遜色ない出来だと思います。
真瀬さんの作品は以前から気になってはいたのですが、これを機会に他の作品も読んでみようかな、
という気にさせられました。
装丁がまたとってもいい。中のイラストも可愛いくて作品にぴったり。

ラストではアイルランド問題なども関わって来て、なかなかスケールの大きな背景が隠されて
いそう。ラストがとても意味深に終わっているので、次が待ち遠しいです。終盤のリアムと
父親の触れ合いが微笑ましかっただけに、暗雲立ち込めそうな今後の展開が気になります・・・。

乱歩の少年探偵団なんかに心を躍らせた経験のある方には是非お薦めしたい一冊。
ミステリYA!シリーズ、次回は田中芳樹さんを読む予定(実は本書の前に牧野修さんの「水銀
奇譚」を読む予定だったのですが、期限切れで返却の憂き目に・・・そのうちリベンジします^^;)。