ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

米澤穂信/「インシテミル」/文藝春秋刊

米澤穂信さんの「インシテミル」。

求人広告の「自給1120百円(=11万2千円)」の文字に目を止め、バイトに応募した12名の
人物が「暗鬼館」に集まった。バイト内容は、この館で七日間を過ごし、その様子を全て監視
されるモニターになるというもの。しかし、そこには大きな罠が仕掛けられていた。閉じられた
空間の中で一人、また一人と人が死んで行く・・・手に汗握る究極の殺人ゲームを描いた本格
ミステリー。



正直、面白かったのかどうかよくわからない。いや、正統派なクローズドサークルものだし、
そして誰もいなくなった」ばりに一人一人人が死んで行って残された人間たちが恐慌を
来たすといった流れはまさしく古典的な本格ミステリーで、私の最も好きなタイプの作品
ではあります。だから、推理ゲームを楽しむ作品と言われればそれなりに面白かったと
云えると思う。それぞれの殺人の謎解きは細かく伏線が張られているし、確かに感心する
部分も多かった。
でも、基本の設定に疑問を感じる部分が多いのと、それぞれの人物の掘り下げが足りない
ので、いまひとつ作品に入っていけなかったのも事実。途中で誰が誰だかわからなくなったり、
それぞれの人物に与えられた凶器が何だったか整理しきれずに、頭がこんがらがって
しまい、謎解きを読んでも「ああそうだったのか!」というすっきり感というのがいまいち
得られなかった。それはまぁ、じっくり一つ一つ整理しながら読めばいい話ってだけな
訳で、完全に自分の読み方が甘いせいではあるのですが^^;
それに、第一の殺人、第二の殺人と、前半の殺人に関しては割とあっけなく真相が判明して、
それがそのまま正解だったりしたので、ちょっと拍子抜け。もっとどんでん返しがあるのかなと
思っていたのですが。結城が謎解きした時点でかなり天狗になっていたので、余計にそういう
しっぺ返しがあるかと思っていたのにな。結局全ての殺人に関してきちんと正解に導く
謎解きをしたのは彼だけだったので、探偵としての素質を持っていた唯一の人物だったという
ことなんでしょうか。





以下ネタバレあります。未読の方はご注意下さい。










仕掛け元である暗鬼館の主人の顔が全く見えて来なかったのどうにも据わりが悪い。
何故あんな高額報酬を与えてまで殺人ゲームを展開したのか、その理由が明かされていないのは
何とも消化不良。主人側のメリットは何だったのでしょう。単なる暇つぶしにはして手間もお金も
かかり過ぎている。<ガード>の存在なんて、これの為に開発したとしか思えないロボットでしょう。
実は、高額報酬をぶら下げておいて、最後は全ての人物が死ぬように仕向けるのかなとも勘繰って
いたのですが、生き残った者にはきちんと報酬が払われているし。
人と人が殺し合うのを生で見たいが為というだけだったら、本当に気が狂っているとしか
言い様がありませんが。あと、関水があれ程のお金を必要とした理由が明かされていないのも
気になりました。自分が10億稼がないと皆が死ぬとか、意味深な言葉だけ聞かされて後は
うやむやというのはどうも。須和名の正体もなんだかよくわからなかったし。読み終わって
消化不良を感じる部分が多くて、もやもやしてしまいました。


語り手である結城のキャラは米澤さんらしい冷静さと思慮深さを兼ね備えた青年という感じ。
ただ、須和名に対してだけ妙にへりくだった態度を取り、他の人物のことは見下したりして、よく
わからない性格という印象も。人が死んで行くのを見ても動揺しない冷徹な人間なのかと
思っていたら、ラストで、犯人に対して自分の報酬を与えるような人の良さを見せてみたり。
性格の印象が全く一致しなくて一番掴めない人物だったかも。

結局、おいしい話には裏があるということですね。私だったら、自給11万のバイトなんて
怖くて手出せないな~^^;絶対何かの宗教団体かと疑うでしょう。いくらお金に困って
いるからって・・・。怖い、怖い。

ちなみに「インシテミル」は「淫してみる」なんでしょうね・・・。









やっぱり、私は米澤作品とは相性が悪いということなのか・・・。どうも手放しで「良かった!」
と思える作品に出会えたことがない。年末の各種ランキングではほんとんどランクインしていたと
思うのですが、私の中ではそれ程の作品ではなかったな。一番のネックはやっぱりキャラ
なんだよな~^^;今回はキャラ読み小説ではないですが、それぞれの人物造詣にはやはり
受け入れ難いところがありましたので。
ということで、自分の年末ランキングに食い込むかなぁと少し期待していたのですが、
残念ながらランクインはありません。あしからず。