ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

永井するみ/「カカオ80%の夏」/理論社刊

永井するみさんの「カカオ80%の夏」。

高校二年生の凪は、クラスメートの雪絵から突然「洋服を買いに行くのに付き合って欲しい」と
頼まれる。さして親しいわけではなかった雪絵からの誘いに戸惑いつつも、行き着けの洋服屋
に連れて行くことに。自分に似合う洋服を買うことが出来、満足そうにしていた雪絵だったが、
その数日後、母親に書置きを残して突然姿を消してしまう。買い物に付き合ったことで凪と
雪絵が親しいと勘違いした母親は凪が何かを知っているのではと連絡をしてくる。真面目な
雪絵の身が心配になった凪は、行きがかりで雪絵の行方を捜すため手がかりを辿り始める
――ほろ苦い青春ミステリー。ミステリYA!シリーズ。


YAものとしてはなかなかの良作。中高生が読むにはぴったりの作品でした。主人子の凪は
クラスから少し浮いているけれど、芯のしっかりした女の子。クールな彼女が失踪した友人の
為にあれこれと奔走する姿は読んでいて爽快でした。複雑な家庭で育ったせいか、高校生
にしてはかなり大人びていて冷めた性格ですが、雪絵を捜す途中で知り合ったミリや紀穂子
を始め、区民センターで出会った老女の鈴木さんやその友達の玉井さんなど、情報を与えて
くれる人々一人一人に誠実な応対をする凪の性格は好感が持てました。何より、大して
親しくもなかった雪絵の為にあそこまで危険な目に遭い、体力が限界になりながらも
最後まで彼女を捜そうと頑張る姿に胸を打たれました。ハードボイルド風を装っていても、
やっぱり主人公は女子高生。弱気になったり、ちょっとしたことで気分が落ち込んだり、
十代の少女らしい心理描写も巧みで感情移入しながら読み進められました。

雪絵の背後にいた人物についてはおそらくほとんどの人が当たりをつけられてしまうと
思うので、ミステリとしてはやや物足りない面もありますが、ミステリというより
女子高生の少しハードな七日間を追った青春ストーリーとして面白く読めました。
凪が渋谷で薬を嗅がされた上合法ドラッグを掴まされてしまう辺りはどこまで物騒な展開に
なっちゃうんだろうとハラハラしましたが、YAものを意識してなのか、そこまでの展開
にはならないのでほっとしました。

凪行きつけのカフェ『ズィード』のマスターはなかなか良い男です。凪とはどうやらお互いに
憎からず想っている感じ。本書ではそこまでの展開にはなりませんが、きっと今後は
ちょっとづつ二人の距離は近づいて行くのだろうなと思わせます。凪の活躍はまた読みたい
し、二人の今後も気になるので是非続編を書いて欲しいなぁ。

ただ、一つ気になったのは誤字脱字が妙に多いこと。第一回配本だからその辺チェックが
甘かったのか、単に永井さんのミスなのかはわかりませんが・・・所々気になる箇所が
あったので^^;今までこのレーベルではあまり感じたことがなかったのですけれど。

ほろ苦いビターチョコのような女子高生ハードボイルド作品。
読後も爽やかで、このレーベルとしてはなかなかの水準だと思いました。




ここで緊急企画。
このレーベルもかなり読んで来たので、極私的ミステリYA!ランキングをば。
もちろん未読もまだまだ残っておりますが^^;



1.柳広司漱石先生の事件簿 猫の巻」

2.真瀬もと「キューピッドの涙盗難事件」

3.大倉崇裕「オチケン!」

4.芦原すなおカワセミの森で」

5.永井するみ「カカオ80%の夏」

6.篠田真由美「王国は星空の下 北斗学園七不思議」

7.鯨統一郎「ルビアンの秘密」

8.田中芳樹「月蝕島の魔物」

9.早見裕司「満ち潮の夜、彼女は」

10.折原一「タイムカプセル」

11.山田正紀「雨の恐竜」



今月また三冊ほど出ちゃったみたいなので、制覇にはまだまだほど遠い^^;
北森さんは延期になったのかな?(HPに出てなかった・・・)
12月配本だと皆川博子さんと岸田るり子さんのが楽しみ。
と今理論社のHPを見ていたら、来年は本書の続編が出るとの情報が!!
また凪ちゃんに会えるの楽しみだな~^^