ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

藤岡真/「白菊」/創元推理文庫刊

藤岡真さんの「白菊」。

画商を営みつつ、テレビで超能力タレントとして活躍する相良蒼司の元に、W大助教授の
久村が一枚のスケッチを鑑定して欲しいと持ち込んで来た。「白菊」と名づけられたこの
素描の元絵があるとしたら、それは世紀の大発見になる――依頼を受けた相良は早速調査
を開始するが、何者かに襲われるはめに。更に、依頼主の久村が失踪してしまい――「白菊」
に隠された謎とは一体何なのか――文庫書き下ろし長編。


またしても美術ミステリです。これは全く意識せずに手に取ったらたまたまそうだった
だけなんで自分でもちょっと驚いたのですが。

大して分厚い本でもないのに、忙しいせいか初めて読む作家さんで文体に慣れないせいか、
結構時間がかかってしまいました^^;実は終盤辺りに差し掛かるまで、どうも登場人物や文章
に馴染めず、作品に入っていけなかった。読みにくい文章という訳では全然ないのですが、
全体的にぼやけた印象で物語が錯綜していて状況がつかみにくいというか・・・。多分
自分が精神的に疲れているせいもあるとは思うのですが。だいたい、主人公相良の性格が
よくわからなくて、感情移入が出来なかった。テレビに出演する程有名な超能力者の正体
が単なるインチキだなんて・・・^^;なんだか嘘を吐いてまでテレビに出て顔を売る
という行為自体に受け入れられないものを感じてしまいました。それに、助手の女の子
を気にしつつも、その場の流れで依頼人の妻と関係を持ってしまう辺りにも嫌悪しか感じ
なかったし。その他の登場人物も全体的に印象が薄くて、その割にいろんな人が出てくる
から「これって誰だっけ」を何度も繰り返してしまった^^;

実は相良の捜査能力についても「推理だけでここまで言い当てるのは無理なんじゃないか」
と設定自体に疑問を感じていました。
・・・が、ラストの手紙を読んでちゃんと裏があったことがわかり、腑に落ちました。
本人自身も気付いてなかったことではありますが。相良と供に「そうだったのか!」と
目から鱗の思いでした。
相良の行動と並行して語られる「わたし」の正体にもまんまと騙されてしまった・・・
この辺りの仕掛けは非常に巧い。ぼやけた印象の前半~中盤にかけてですが、その中でも
ゆるゆると伏線は張られていたのでした(気付けよ)。ただ、そのゆるゆる感のせいで、
それ程あっといわせる、という感じがなかったのが残念。良く出来てはいるのだろうけど、
感心するほどでもなかったというか。もう一歩という感じ。あの手紙部分だけがちょっと
唐突な感じもするし。
できれば、ああいう展開にするならばもう少し相良とその人物の関係とか感情をきちんと
書いておいて欲しかった。自分好みの展開ではあるんですが。

肝心の「白菊」の謎については、文章だと何が何やら。イラストつけて欲しかったな。
これ、二時間のサスペンスドラマとかにしたら面白いかも。インチキ超能力者なんて設定、
いかにもテレビ向けっぽいし。ラストの手紙の辺りでエンドロールが流れて、エンドロール
が終わった後に1791年の少年二人が出て来るという。いいじゃないか(自画自賛)。

冒頭で美術ミステリなんて言ったけど、読むとどちらかというとハードボイルド系に
近いかな(でも相良のキャラだとハードボイルドって言葉は何か違う気も)。
終盤は本格ミステリもプラス。中盤まではともかく、ラストでかなり挽回しました(偉そう)。
作者は続編を想定して書いてらっしゃるとのことなので、相良と手紙の人物が再び出会う
物語が読めることは期待してよいのかな。

しかし、藤岡さんって、バカミスの方だったのですね・・・!!
私なら、そのバカミスの方を先に読むべきだったのかも!?
(っていうか、ほんとは以前ゆきあやさんにお薦めされた「ゲッベルスの贈り物」が一番
読みたいのに、図書館にないんだもん^^;)