ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小路幸也/「HEARTBLUE」/東京創元社刊

小路幸也さんの「HEARTBLUE」。

ある朝、ニューヨーク市警の失踪人課の警察官であるダニエル・ワットマンの元に、一人の
少年が「知り合いの少女がいなくなった」と訪ねて来た。彼女は、地下で生活する彼の仲間
だったという。ダニエルは、少女の行方を捜し始めようとするが、直後に少女の遺体が
発見された。少女は自殺だった。遺体のそばには胡桃の実のキーホルダーがついた家の鍵が
落ちていた。ダニエルはこのキーホルダーをどこかで見た覚えがあった。以前に自殺した
少女が同じものを持っていたのだ。二人の少女の死に繋がりはあるのか――一方、ダニエル
の友人でCGクリエイターの巡矢も写真に写ったある一人の少女を追っていた。錯綜する
それぞれの事件が行き着く先には――「HEARTBEAT」のその後を描いた書き下ろし長編。
ミステリフロンティアシリーズ。


前作「HEARTBEAT」はレーベル読みしているミステリフロンティアの中でもかなり上位に
入るほど好きな作品。ミステリ的な仕掛けにも大いに驚かされたし、出て来るキャラクター
たちがとても魅力的だったので。特に、巡矢のキャラはお気に入りで、まだ出して欲しい
なぁと秘かに熱望していました。ただ、読んだ方はおわかりかと思いますが、あの作品に
続編が書かれることはないだろうと思っていた。全体通して、大きな仕掛けがしてある
作品で、一冊で物語が完結しているから。だから多分彼らに会うことはもうないだろうな
と思っていました。

で、今回続編が出る!と聞いて一体どんな物語になるんだろう?と期待半分、不安半分。
おそらく、今度は巡矢が主人公になるんだろうな、という想像はしていたのですが。半分は
その通りでした。まさかニューヨークを舞台にするとは予想外でしたが。『彼』の‘あの時’の
経験をここまで引っ張るとは思いませんでした・・・。正直、「HEARTBEAT」の内容は大まかな
部分しか覚えていないので、『彼』のNYでの経験のエピソードなんかほとんど忘れていて、
これ読んで「ああ、そういえば」と思い出したという・・・(毎度のことだが私の記憶力のなさ
は絶望的だ・・・)。

でも、内容は読んでいて気持ちの良い話ではなかったです。文章は読みやすいのでさくさくと
進むのですが、題材が題材なので、読めば読む程気が重くなりました。いかにもアメリカ的
な犯罪。おそらく、あちらではこういう犯罪は日常茶飯事なのでしょうが・・・。真相を
読んで更に胸がどんよりしてしまいました。どこまでも救われない結末でした。前作同様
二つの視点が交互に語られる形式ですが、今回はミステリとして大きな仕掛けというのは
なく、真相もそれを知った登場人物たちのその後もややご都合主義的なものを感じてあまり
好きではなかったです。ラストもダニエルの為にというのはわかるのだけど、真相をまげて
しまうのはどうかと思う。なんだか、それぞれが自己欺瞞な印象で、「それでも未来を生きて行く」
というような前向きさを演出している割に、後味の悪さを感じてしまいました。





以下、ネタバレ注意です!











何より一番がっかりしたのは巡矢のキャラ。前作ではあんなに魅力的だったのに、今回
その魅力を全然感じなかった。それはやっぱり、『彼』が出て来ないからだと思われ。
『彼』がいるからこそ、巡矢の優しさが生きていた。今回パートナーとして出て来たかんな
ではやっぱり役不足。ヤオも名前が一回出て来ただけで残念でした。三人の関係がとても好き
だったから、前作はあんなに面白く感じたのだろうな。でも、所々で巡矢が少しも『彼』の
ことを忘れていないことがわかり、それだけは嬉しかったです。








どうやら、このシリーズ、まだ続きがあるようです(HEARTシリーズと呼ぶらしい)。
もともと本書は前作同様『彼』を主人公にする予定だったのだとか。一体どんな話に
するつもりだったんだろう・・・。
次はできれば日本を舞台にして欲しいなぁ。ラストで巡矢がサミュエルを日本に連れて行く
とか言ってるから、そうなる気はするな。ヤオもまた出して欲しいし。ヤオとサミュエルは
結構仲良くなるんじゃないかなぁ。