ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋梨惟喬/「もろこし銀侠伝」/東京創元社刊

秋梨惟喬さんの「もろこし銀侠伝」。

‘殺三狼’という殺人技の使い手である商人の李小遊が毒殺された。小遊に薬を処方していた
薬屋の主人・蒲康が下手人として疑いをかけられ小遊の屋敷に囚われた。蒲康の幼い一人娘・
公英は悲嘆にくれるが、最近店に出入りするようになった老人客の雲遊がやって来て、蒲康の
無実を証明すると力づける。かくして、公英は雲遊に連れられ、証拠探しに駆けずり回ることに
――(「殺三狼」)。水滸伝時代の中国を舞台に繰り広げられる連作ミステリー。ミステリ
フロンティアシリーズ。


ミステリフロンティアなので借りてはみたものの、中国が舞台ということでなんとなく
読む気が起きず、ついつい後回しになって一度延長の憂き目を見た本書。でも借りた
からには読まねば!と重い腰を上げて読み始めたら、これがなかなか面白かった。
ただ、やっぱり中国名ってのはどうにもこうにも地名にしても人名にしても覚えられないし
読みにくい。しかも水滸伝の世界を知らないものだから、舞台設定があまり頭に入って来ず、
何度も読み直したり。その辺りは案の定苦戦しました。

一応『銀牌』で繋がった連作形式ではあるのですが、それぞれに探偵役が変わるので
あまり連作っぽい感じはしなかったです。ただ、二作目に出て来た師匠と弟子の女性は
一話目の雲遊と公英のその後で、三作目の青霞はさらにその後の公英なのかな、と思って
読んでましたが。名前が違ったり出て来なかったりするので確信を持ってそうだとはいえない
のですが・・・。最後の「悪銭滅身」だけ全く単独の話になってしまうので、ちょっと面喰らい
ましたが。どうやって繋がってるのかなぁと最後の最後まで疑問に思っていたのですが、ラストで
やっと『銀牌』が出て来て、ああ、こういう風にリンクしてるのか、と腑に落ちました。ただ、
この『銀牌』自体の設定が曖昧で、それぞれの作品にもそれ程生かしきれていない所が残念。
結局『銀牌』ってなんだったんだろう?という消化不良な気持だけが残ってしまいました。
(冒頭のプロローグを何度も読み直したのですが、結局よくわからなかった^^;)

ただ、ミステリ部分はどの話もなかなか面白かったです。ロジックの組み立てはしっかり
していて、ちゃんと本格ミステリとして通用するものだと思いました。一番好きな話は
「北斗南斗」。ミステリとしても面白かったし、顔賢が山奥で出会う仙人風の師匠と弟子の
二人の関係も好きだし、顔賢と蔡徳のラストも泣かせます。読み物としては一番面白かった。
出来れば、この作品の流れでその後も行って欲しかったんだけどなぁ。

巻末に収録されてる『用語解説』はもちろん読み飛ばしたのですが(オイ)、『燕青』(ラストの
「悪銭滅身」の主人公)の部分だけ気になったので読んでみたら、「ご存知『水滸伝』の
人気キャラクター」とのこと。
・・・『水滸伝』読んでないんですけど!!『ご存知』って・・・燕青ってそんなに有名な
キャラクターなのですか。『銀牌』をそこ(水滸伝)に繋げたかったのか・・・とここで初めて
気がついた作者泣かせの読者は私です。
水滸伝」や「三国志」なんかがお好きな方にはきっと楽しめる作品なのではないかな。