ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「こころげそう 男女九人お江戸の恋ものがたり」/光文社刊

畠中恵さんの「こころげそう 男女九人お江戸の恋ものがたり」。

想いを寄せていた幼馴染の於ふじがその兄千之助と供に死んだ。江戸橋本町の下っぴき・宇多は、
最後まで自分の想いを告げられなかったことを悔やむ。我が子を同時に失った兄妹の父であり
小間物屋大和屋の主人・由紀兵衛は店もたたみ、隠居して引きこもっているらしい。心配
になった宇多が会いに行ってみると、思いの外元気そうだった。心外に思う宇多だったが、
その裏には意外な出来事が隠されていた。なんと、この世に未練が残った於ふじが、幽霊と
なってこの世に留まっていたのだ――於ふじと千之助の事件を追う宇多の前に、幼馴染の
仲間たちの恋模様も絡まって来て――江戸版青春群像連作集。


畠中さん新刊です。お仲間さんの中では一番乗りかな?(まだ記事を見かけていないような)
今回のメインは幼馴染の男女九人の恋物語がメイン。といっても、うち2人はいきなり冒頭
から亡き人になってしまう訳ですが(うち一人は幽霊になってメインで登場しますが)。
まぁ、言ってしまうと江戸版「はちみつとクローバー」てな感じでしょうか。といっても、私、
ハチクロ読んでないんで、推測でしかないんですが^^;あれは話に聞くと、ほとんどの人物が
片想いの話らしいので。本書も幼馴染仲間が9人いて、それぞれに想い人がいるのですが、
矢印はほとんど一方通行。唯一弥太とお染だけが恋仲ですが、これもいろんな邪魔が入って
一筋縄ではいかない恋模様。時代設定は江戸ですが、中身は現在の青少年たちの恋愛ものと
何ら違わない。いつの時代でも、恋の惚れた腫れたで一喜一憂するのは変わらないということ
ですね。まさしく青春群像小説でした。恋に悩むそれぞれの人物の心情が細やかに描かれていて、
なかなか良かったです。

ただ、亡くなった千之助はともかく、宇多が居候している長屋の娘・お絹の心情が全然描かれ
なかったのは残念。明らかに宇多に想いを寄せているのだから、ラストではそれなりのエピソードが
出て来るかなと期待していたのですが、あっさり終わってしまったので。於ふじと宇多が上手く
行くことはあり得ないから、最後はお絹に花を持たせるのかな~と思ったんですけどね。まぁ、
宇多もそんなに早くふっきれる訳ないんですけど。ちょこっと今後を匂わせるエピソードが
あると良かったなぁ。於ふじはなる程とてもいい女だけど、お絹もしっかりしててなかなか
いい娘だと思うんだけどな。結局、男女九人の恋は成就したりしなかったり様々な結末を迎える
けれど、それぞれに前を向いて自分の人生を歩んで行くという結末は爽やかでした。中には悲惨な
結末を迎える人物もいますが^^;でも、江戸もので青春を感じるとは思わなかった(笑)。
やられたな~という感じでした。

各短編の中に「於ふじと千之助の死」という一つの事件を少しづつ絡めて行き、最後にそれが
繋がる構成は、以前に読んだ「つくもがみ貸します」と一緒。メインは恋物語なんですが、
一応ミステリとしても読めるようになっています。ただ、このミステリ部分については正直感心
できるとは言い難い。最後まで引っ張った割に、大した真相ではなかったのでやや拍子抜け^^;
まぁ、畠中作品にはそれ程ミステリを期待していないので、作品自体の評価がそれ程下がった
訳ではなかったのですが。

個人的には於ふじの父・由紀兵衛がお気に入り。穏やかで聡明で、落ち着きのある優しい父親
という感じ。宇多が由紀兵衛長屋で事件の相談をする為に於ふじと由紀兵衛に会いに行く
シーンが好きでした。

複雑に絡み合う男女の恋ものがたり。ミステリ部分はともかく(苦笑)全体的には
なかなか楽しく読めました。今回は妖怪ではなく幽霊。でも於ふじみたいな幽霊なら
全然怖くない。むしろ会いたい(笑)。於ふじさんのおきゃんでさっぱりした性格は
とても好きだな。生きていれば、宇多とはお似合いのカップルになったでしょうにね。残念。
これで畠中作品、残すは直木賞候補作の「まんまこと」のみ。実は手元にあります。へへへ。




ちなみに、「こころげそう」――「心化粧」:口には言わないが、内心恋こがれること。
だそうです。最初タイトル聞いた時、「こ、転げそう」かと思った・・・アホ(笑)。