ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「まんまこと」/文藝春秋刊

畠中恵さんの「まんまこと」。

江戸は神田の名名主、高橋宗右衛門の息子麻之助は、評判の良い若者であり、周囲からの期待
も大きかったが、なぜか16歳になった時、突然‘お気楽な若者’に変貌してしまった。それ
以来、周囲の者達は麻之助のことを、楽しい若者だが先々支配町の名主にするには不安がある
と感じていた。ある時、麻之助の悪友で同じく町名主である八木源兵衛の息子・清十郎が
とんでもない頼みごとを持って来た。人に自分と麻之助が男色の仲だと言って欲しいという
のだ。どうやら、好色の清十郎は女とまた揉め事を起こしたらしい――麻之助が名主名代
として初めての調停に立つ(「まんまこと」)。表題作他5編を収録した連作短編集。


これは言ってみれば、町内版大岡越前ですね。今回は妖怪も幽霊もつくも神も出て来ない、
普通の(?)お江戸の人情譚。うん、畠中さんらしいストーリー展開で、なかなか楽しめました。
それぞれの揉め事をきちんと巧く収める麻之助の手腕はなかなか。いい加減でお気楽な性格
になってしまったとは云え、もとは真面目で頭の切れる人間だったのでしょうね。いざとなったら
やることはきちんとやる名名主名代っぷりななかなか格好良かった。ただ、あんな理由で
それまで培った来た性格を捨て、おちゃらけた人間になってしまうというのはあまり理解
出来ませんでしたが・・・やはり、お坊ちゃん育ちなんだろうな。普通だったら勘当されて
終わりだと思うけど、仕事もしないでやりたい放題やってぬくぬくと過ごしてられるんだから。
いいご身分ですよねぇ。この甘やかされ方は「しゃばけ」シリーズの若旦那に通ずるものが
ありますね。まぁ、若旦那の場合は病弱で致し方ないわけで、麻之助の放蕩とはまた全然違う
のですが。

一編一編は一時間ものの時代劇にでもなりそうな感じにまとまっていて良いのですが、
やっぱり妖怪が出て来ない分少し物足りなさも感じました。麻之助の調停シーンは
なかなか爽快で良かったのですけれどね。一番好きな話は「柿の実を半分」かな。
小左衛門さんとお紺さんが幸せになるよう最良の裁定を下した麻之助の手腕はなかなかでした。
ただ、今回も全体通しての謎として麻之助とお由有さんとの過去というのがあり、最後にそれが
明かされる訳ですが、そこがいまひとつ盛り上がりに欠けるかな、と思いました。幸太が
誰の子かというのもあっさり明かされ過ぎて、いささか拍子抜けした所もありましたし。
相変わらず、ミステリとしてはゆる~いんですよね^^;まぁ、じんわりと優しさを感じる
所が畠中作品の良い所で、あまり派手さを求めちゃいけないのでしょうけど。ラストは
切ないですね。多分こうなる以外になかったとは思うし、違う結末であればここまで余韻が
残せたとは思わないのですが。後悔先に立たず。人間って、過去をやり直せたらどんなにか
いいだろうと思うけれど、それが出来ないからこそ違う未来を生きて行けるのでしょうね。

確かに面白かったのですが、直木賞候補になる程の作品かと言われると、ちょっと地味な
感じはしました。男三人のキャラももうちょっと書き込みが欲しかった。特に同心見習い
の吉五郎は職業の割に出番が少なかったので、かなり印象の薄いキャラになってしまっている
のが残念でした。清十郎も、麻之助と同じ立場に据える必要があったのかなぁと疑問に感じる
部分も。なんとなく、キャラが被ってしまった感があったので。三人の友情関係をもっと
しっかり描いた話が入ってたらもっと良かったかも。シリーズ化されるようなので、もしか
したら、今後そういう話が書かれると期待して良いのかな。それに、お寿ずさんとの仲が
どうなるかも楽しみ。ちなみに、今回一番の萌え~は幸太君でした。麻之助とじゃれ合う
ところがまたなんとも微笑ましい^^

なんだかんだ云っても、やっぱり畠中さんの江戸ものは面白い。普段時代もの苦手な私でも
これだけ楽しめるのだから、みんなに愛されるのもわかります。これからも追いかけますよ~。