ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌野晶午/「ハッピーエンドにさよならを」/角川書店刊

歌野晶午さんの「ハッピーエンドにさよならを」。

姪の理奈から「相談したいことがある」と訪問を受けた医者の美保子。理奈曰く、「自分は
親から嫌われている」という。姉の由里に比べて、自分だけが今まで謂れのない酷い仕打ちを
受けて来たというのだ。そして、理奈はその理由に突き当たったという。しかし、美保子は
その裏に隠された事実を知っていた――(「おねえちゃん」)。歌野晶午が贈る、アンチ・
ハッピーエンド・ストーリー11編を収録。


予約に乗り遅れたもう一冊です(苦笑)。地元図書館では呑気に構えていたら、あれよあれよと
言う間に予約数が増えてしまった為正直諦めモードでいたのですが、運よく隣街の図書館で発見^^
題名からして想像はしていたものの、本当に全ての作品後味最悪。ここまで嫌~な話ばかりを
考えられる歌野さんもなかなか悪ですね(苦笑)。って、この間の平山さんの短編集と似た
感想になっちゃってるけど^^;
装丁からして『黒っ』って雰囲気が出ています。表紙も黒枠ですが、ページ自体も黒で縁取られて
いるという徹底っぷり。これ、褒めてますよ(笑)。
非常に短いショートショートも含めて全部で11編。短編なので多少の物足りなさを感じる
作品もありましたが、なかなかひねりのきいた良作揃い。ただ、読んでいて嫌~な気分には
なりましたけどね^^;でもこういう趣向の作品集は結構好き。身近に潜んでいる悪意から
引き起こされる悲劇を描いたものが多いので、リアリティもあり、それだけにぞくぞくしま
したね。


以下各短評を。

「おねえちゃん」
『自分が親に嫌われている』という会話から、一体どういう着地点に向かうのかな、と
思いながら読み始めましたが、途中でオチは見えてしまいました。誤解から生まれる悲劇ですね。


「サクラチル」
これは巧い。この仕掛けには全然気付かなかったです。ミスリードのさせ方が絶妙ですね。
歌野さんが最も得意とするタイプの作品なのかも。アノ作品を思い浮かべましたね。


「天国の兄に一筆啓上」
ショートショート。弟の身勝手さが腹立たしい。


「消された15番」
復讐の動機は究極の自己中心的理由。それで、息子は~?


「死面」
これは好きですね。ぞくりとする雰囲気もそうだけど、ラストの落としがひねりが
きいていて良い。ちょっと乙一さんぽいかな、と思いました。


「防疫」
これはムカムカしながら読んでいたのだけど、ラスト、こう来るか!という感じでした。
子供のお受験というネタはありふれているけど、母親の心理の変化は読んでいて怖かった。
そして、蛙の子は蛙。黒いな~^^;


「玉川上死」
これは以前に読んだアンソロジー川に死体のある風景」に収録されていたもので、唯一既読作品でした。
終盤で視点が変わるところは面白い。ただ、殺人のからくりはわかりやすいので、そこに
もう一ひねり欲しかったところ。


「殺人休暇」
ストーカーの真相は切ない。オチは見えてしまったのだけど、本書で一番黒い人物って
実はヒロインの後輩の敏江だろうな。主人公への見えない悪意が一番怖かったかも。


「永遠の契り」
ショートショート。『天国から地獄へ』、その一言に尽きる作品。


「In the lap of the mother」
いつの時代にも母親の身勝手で犠牲になる子供がいるもの。これは充分殺人行為ですね。


「尊厳、死」
これは正直最後を読むまではすごく嫌な気分で読んでました。社会生活を投げ出してホームレスに
なってしまう主人公も、それを攻撃する中学生も、自己欺瞞から救いの手を差し伸べようとする
中年女性も、全部嫌悪の対象でした。でも、最後の一行で全てが覆され『ヤラレタ!』。
作品の仕掛けとしては一番秀逸なのでは。完全に作者の術中にはまってました^^;



ちなみに、全てが救いのない話ですが、中でも嫌悪を感じたベスト3は、1位「防疫」、
2位「In the~」、3位「尊厳~」。
母親の身勝手さから起きる犯罪というのは、本当に腹が立つし、やりきれない思いが
残りますね。


救いはないけど、小説としては面白いものばかりでした。
歌野流のブラックテイストを是非ご賞味あれ。