ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸/「猫と針」/新潮社刊

恩田陸さんの「猫と針」。

「人はその場にいない人の話をする」

高校時代の同級生オギワラの葬式の後で久々に集まったサトウ、タナカ、ヤマダ、スズキ、
タカハシ。久しぶりの再会で一見和やかに話ははずむが、誰かが席をはずすと、他の人間は
その人物について語り合う。やがて会話は不穏な空気へと――演劇集団「キャラメルボックス
の為に著者が書き下ろした戯曲台本、待望の書籍化。


書店で実物を見てその小ささと薄さにびっくり。まさか台本をそのまま文書にしたものだとは
思っていなかったので(てっきり小説化してあるのかと思い込んでいた)。実際、1時間くらい
であっという間に読み終えてしまいました^^;本は図書館で借りたけど、これなら頑張れば
立ち読み出来たな・・・(オイ)。
内容は実に恩田さんらしい、心理サスペンス。ただ、これはやっぱり実際舞台で上演された
ものを観ないと、この作品の本当の面白さというのはわからないかも。文章で読んだだけでは
表情が分からない分細かい心理描写なんかが伝わって来ないので、正直ピンと来ない台詞も
多かった。役者がその人物を自分のものにして演じて初めて、各人物間の巧妙な心理のかけひきの
緊張感にはらはらできるのではないかと思う。ストーリーとしては、かなり消化不良な部分が多い。
憶測だけで物語が進んで行き、結局謎は何一つ解明されていない。また、その憶測はかなり不穏で、
そのしわよせは死者にまで向かって行く。死者が最も重要な役割を担っていることは確かなの
だけれど、亡くなった人間が実際過去に何を行ったのかは闇の中。それでも少しづつ明かされて
行く驚くべき事実にその場の人間は惑わされていく。この辺りの心理戦の書き方はやっぱり巧い。
いくつか提示される謎が全てすっきりする話ではないので、もやもや感は残りましたが、
その場にいない人間について他の人間たちが語り合うことで、その人物の人物像が見えて来る
というのが面白かった。もちろん、あくまでそれは憶測に過ぎないので、真実はまた別にあるの
だろうけど。

やっぱり、一番気になる人物はオギワラ。結局彼の死については謎のままだし、高校時代の
学園祭準備の時の彼の行動も謎だらけ。久しぶりに会った筈の高校時代の同級生たちが、
彼とだけそれぞれ少しづつ接点があったというのもかなり意味深だし。それも今となっては
五里霧中。死者というのは便利な設定だなぁと思いました(苦笑)。

でも、もっと根本的に気になったのはやっぱりタイトルです。猫、はまだいいんですよ。作中に
登場してない訳じゃないですから。でも、針ってのは・・・なんで?最後まで読んでもさっぱり
わからなかった^^;猫と針。関係なさそうな二つのものを並べるというのは実に恩田さんらしい
タイトルのつけ方で、実際いいタイトルだとも思うのだけど、それが読んでちゃんと意味をなして
いないとやっぱり気持が悪い。だいたい、恩田さんご自身が「タイトルの針の意味に答えが
出てない」と言っているのだから、読者としてはお手上げです^^;なんとなく不穏な
雰囲気は出ている気はするものの、内容と合ってるかと言われると・・・。


うう。舞台観たかったな~~・・・。これに尽きますね。
再演しないかなぁ。