ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

金城一紀/「映画篇」/集英社刊

金城一紀さんの「映画篇」。

友情、正義、ロマンス、復讐、そして、笑いと感動―。五つの物語の力が、あなたを救う。
今すぐ映画が見たくなる。今すぐ誰かに読ませたくなる。笑いと涙と感動が詰まった、
完全無欠のエンターテインメント!書き下ろし小説集(セブンアンドワイより抜粋)。


またあらすじ抜粋です。すみません^^;でも、全くその通りの小説だったので、私が
考えるよりもずっと良さが伝わって頂けるかな、という気はするので(っていうのは建前で、
その実、時間がなくてあらすじを考えるのが面倒になったってだけなんですけど^^;)。

本屋大賞候補作ということで気になっていたところ、普通に開架に置いてあったので即借り。
こんなこともあるんですねぇ。候補作の中では地味な存在だからなのかな?いやいやいや、
読んで本当に良かった。大好きな一冊になりました。あらすじの通り、五編の映画に纏わる
物語が収録されています。各短編のタイトルを挙げると、太陽がいっぱい」「ドラゴン
怒りの鉄拳」「恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス」
「ペイルライダー」「愛の泉」。映画好きに取ってはお馴染みのタイトルなのではないで
しょうか。私は知らない作品が多いですが^^;でも、作中にはこれだけではなく、とても
たくさんの映画のタイトルが出て来ます(情報によると、全部で96本もの映画タイトル
が出て来るのだそう)。
五編の主人公たちはそれぞれ性別も年齢も置かれた状況も全く違う。重い作品もありますが、
その中で映画が重要な役割を果たしていることは共通しています。どの話にも映画への愛が
溢れている。映画を通して伝わる愛情、友情、悲しみ、楽しみ。いろんな状況の中で交わされる
「映画観に行こう」という言葉。それだけで伝わる想いがある。その時々で、胸が切なくなったり、
温かくなったり、いろんな感情が込み上げてきました。

実は金城作品を読んだのは初めて。映画の「GO」は大好きな作品で、原作を読んでみたい
とずっと思っていたし、「フライ、ダディ、フライ」もすごく気になってた映画で(主演
岡田君だし)原作も読もうと思っていた。でもいざ書架へ行くとなんとなく手が出ずに
スルーしてばかりでした。そんな今までの自分を恥ずかしく思う位、この本が愛おしく
思えました。始めの二篇辺りまでを読んでる時は「まぁまぁいい話かな」位の感想だったの
ですが、各短編が微妙にリンクしていることに気付いてから俄然評価が上がり、「ペイルライダー」
でガーンと来て、最後の「愛の泉」で白旗。この構成も抜群にいいですね。「ペイルライダー」の
おばちゃんとユウの交流がとても好きだった。それだけに後半の展開は辛かった。
多分こういう流れになるのだろうとわかってはいても、やっぱりおばちゃんの真の目的が
わかった時はやるせない気持になりました。それでも、彼女が長年かけて計画したことを
遂行することは彼女にとっての必然だったのだろうと思う。その後の彼女がどうなるのかは
あまり考えたくないな・・・。そして、彼女とユウが再び会うこともないのでしょうね・・・。
「ペイル~」がとても重い結末だったので、最後はどんな話が来るのかな、と思っていたら、
もう、本当に微笑ましくて愛おしい素敵な作品でした。これを最後に持って来たことで、
読後感が最高に良くなった。鳥越一族最高です~!これは小路さんのバンドワゴンシリーズの
堀田家を超えたと思う。この鳥越一家の話だけで本にしていいって位、個性的で愛すべき
キャラの大集合。語り手の哲也のとぼけたお人好しキャラも大好きだし、律子ねえちゃんは
かっこよすぎる女性だし、かおるは一癖あるけど哲也とのかけあいが最高だし、ケン坊は
なんとも微笑ましいアホの子だし。彼らの太陽であるおばあちゃんも素敵。おじいちゃんとの
思い出話にはほろりときたし、引きこもりになったかおるを表の世界にひっぱり出した所も
粋でかっこいい。だから子供と老人が活躍する話は弱いんだってば・・・。
そして、彼らが画策した映画上映が、全ての作品に共通する重要な要素になっているところ
もニクイ。私も彼らが上映したこの映画は大好きです。この映画のヒロインのキュートさは、
観た人間のほとんどを虜にしてしまいますね。

読み終わって、ほんとに映画が無性に観たくなりました。私はそれ程映画はたくさん観る方
じゃないけど、思い出に残る作品はたくさんあるし、人生の重要な場面で観た映画のことは
よく覚えていたりする。初めてのデートが映画っていうベタなシチュエーションはなかった
ですけどね(笑)。

とにかく良かった。映画が好きな方はもちろん、そうでない人でも充分読ませる作品
だと思います。さすが本屋大賞候補に選ばれるだけのことはある。私の中ではやっぱり
伊坂さんに獲って欲しいけど、もしこれが獲ったとしても(可能性は少なそうな気も
しますが^^;)、全然不思議に思わない。むしろ、もっとたくさんの人に読んで欲しい
という意味で一番相応しいとさえ思えるかも(あまり注目されてなさそうなんで^^;)。
まぁ、まだ重松さん、角田さん、万城目さんは読める目処がついてませんけどね^^;

読み終えて、もう一度読み返したくなってしまった。本当に細かくたくさんのリンクが
あるので、きちんと整理したい。
たった一冊で金城さんのファンになってしまったぞ。他の作品も読まねば!