豊島ミホさんの「神田川デイズ」。
東京に行けば、何かが手に入ると思ってた。でも、自分から動かなければ何も始まらない。
何も得られない。だから、「何かをしよう」。迷い、悩み、傷つきながら成長してゆく、
大学生たちの青春グラフィティ。
巷で大変評判の良いらしい豊島さんに初挑戦。直球の青春小説というのは聞いていましたが、
確かにその通りでした。一編一編とても読みやすく、登場人物の微妙な感情の動きも丁寧に
描かれている。どの作品も主人公を上京してきた地方出身者にした所が巧い。ここで出て
来る神田川沿いにある大学はそれなりの名門大学らしいので、全国各地から学生が集まって
きているでしょうからね。それぞれに入学する前は「東京に行けば何かが変わる」「何かが
得られる」という期待に胸を膨らませていたけれど、実際学生生活を始めてみると、自分が
思い描いていたものとは大きくズレがある。理想と現実のギャップに向き合わなければならない
学生たちの悩みや焦りや逡巡が伝わって来ました。
ただ、「何かをしよう」と思い立っていきなりお笑いを始めて学内の人気者になっちゃうとか、
映画を撮りたいと思い立ってピンク映画を撮ろうとするとか、どうも現実的でない展開に
いまひとつ乗り切れない自分がいました。各短編がリンクしていて、前の作品の主人公たちが
皆巧く行き過ぎているところもちょっとご都合主義的なものを感じてしまった。面白かった
のは確かなのだけれど、自分が体験した学生生活とのズレを感じていまいちリアリティが
感じられなかった。登場人物たちが類型的であまり好感が持てなかったのも敗因の一つ
かも・・・。「いちごに朝露、映るは空」の左翼活動が一番リアリティがあったような。
私の大学でもこういう光景は見かけたことがあるので。でも、私が中野さんと同級生で、あまり
親しくない時期に彼女がこういう活動をしていると知ったら、おそらく引いてしまって
近づこうとはしないと思うな。結局「そういう目」で見てしまう自分がいるから。憧れの
先輩がいるからって、安易に反戦サークルに身を置いてしまう中野さんもちょっと理解
出来なかった。
一番好きだったのは「リベンジ・リトル・ガール」かな。教科書忘れて周りの人に「貸して」
って言えないで授業出るのやめちゃうって、なんとなく気持わかるなぁ。私も一人で授業に
出席してるとしたら、絶対言えないタイプ。主人公の小林さんが登場人物の中では一番
共感できました。いつも「ほどほど」のところで我慢してたとかね。ネット大好きだし(笑)。
「いちご~」の中野さんとは反対に、こちらは読んでて身に覚えがありすぎて痛かった^^;
角田君も結構好きなキャラ。このカップルは好きだな。
でも、なんだろ。豊島さんの文章自体はとても良いと思うのだけれど、全体的に何か私の中に
入って来るものがなかった。自分の大学生活を思い出して、ほろ苦くも懐かしい気持にはなったの
だけど、さらりと通り過ぎて残るものがなかったというか。どう書いていいのかわからないけど、
私の琴線に触れる青春小説まではいかなかったというのが正直な所。
ただ、先にも言ったように文章は好みなので、他の作品ももうちょっと読んでみたい。
ところで、豊島さんって、まだほんとにお若いのですね!89年生まれって・・・26歳位!?
それでこんな人気作家になっちゃうなんてすごいな~。少し前に読んだ西さんもそうだけど、
私よりも年下でこんなに活躍されてると思うと、尊敬よりも嫉妬心を覚えてしまう^^;
才能があるっていいなぁ(卑屈人間)。