ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中野順一/「ロンド・カプリチオーソ」/東京創元社刊

中野順一さんの「ロンド・カプリチオーソ」。

新宿のバーで従業員兼ピアノ弾きをしているタクトは、触れただけでその人の未来がわかる
能力を持つ恋人・花梨から「新宿西口に近寄らないで」と言われる。しかし、敢えてその約束
を破り西口に向かったタクトは、ひょんなことから一人の女と知り合う。そして、それをきっかけ
に、次々と厄介な事件に巻き込まれ始めるはめに――サントリーミステリ大賞受賞作「セカンド・
サイト」の続編作。ミステリフロンティアシリーズ。


久々、ミステリフロンティアです。ぽつねんと開架に置いてあったので借りてみましたが、
デビュー作の続編に当たるようです^^;まぁ、登場人物が重複してるだけで、話としては
単独で読んでも差し支えないので問題なかったのですが。読むのはもちろん、名前さえ
初めて聞いた方なのですが、今はなきサントリーミステリ大賞最後の大賞受賞者だそう。
といっても私、この賞にはほとんど着目しておらず、多分読んだのも1作くらいしかない
のですが^^;出身者には現在も活躍されてる方が結構いらっしゃるようですけれど。

文章は読みやすいのでさくさくと読み進めて行けるのですが、作品としての完成度は
高いとは言えなかった。展開が安易で先が読めてしまうし、細かい設定が生かしきれずに
終わってしまった所にも不満が残りました。何より主人公に全く好感が持てなかった。恋人が
いるくせに、どう考えても怪しいトモミとその場の勢いで関係を持っちゃうとか、そのくせ
恋人の能力を自分のいいように利用するとか。あまりの身勝手さに読んでいていらいら
してしまった。わざわざ危ない道に突き進んで行く無鉄砲さに好感を抱く人もいるだろうけど、
私には全く理解できず、受け入れられなかったです。花梨の能力の設定もなんだか浮いている
気がするし、主人公が元ピアノの天才児だったり、父親が世界的に有名な指揮者という設定も
もう少しストーリーに生かして欲しかった。ピアノを弾く男っていうのは本来の私であれば
かなりのツボにはまる筈なんですが・・・。腹違いの弟の存在もなんだか中に浮いたまま
終わってしまってるし。ただ、これは更なる続編を意識してのことなのかもしれませんが。

コウジの死に関しても、謎解き前にほとんど当たりをつけられてしまったので、ミステリ的な
驚きというのもなかったです。アキラに関してだけは、ずっと善人なのか悪人なのか
わからず最後まで疑いの目で見ていたのですが(むぅ。あっちだったか~という感じでした)。

作風は福田栄一さんぽいかな、と思いました。安易な展開に物語が進んで行くところも
似てるし^^;ただ、福田さんはキャラに好感が持てるので作品的にもわりと好印象を
受けるところがあるのだけど、こちらはキャラ自体が受けつけないので、全体的にもマイナス
要素が目立ってしまった感じがする。面白くなかった訳では決してないのですが・・・。
少なくともリーダビリティはなかなかだと思います。まぁ、続編が出るなら読んでもいいかな
(って、何故上から目線^^;)。

ただ、もう一つ不満をあげるとすれば、タイトル。意味はメンデルスゾーンピアノ曲なの
ですが、物語とはほとんど関係がない。途中で主人公が父親にリクエストされて弾く曲って
だけで、タイトルに起用された意味がよくわからなかった。ネットで曲を聴いてみましたが、
なかなか綺麗な曲。とても難しそうな感じがしますが・・・コンクールの自由曲に選択する
位だからきっと実際難しいんだろうな^^;指を怪我しないでピアノの道を突き進んだタクト
の物語の方が読んでみたかったかも(苦笑)。