ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

島田荘司/「御手洗潔の挨拶」/講談社文庫刊

島田荘司さんの「御手洗潔の挨拶」。

看板製作会社の社長が密室状態の仕事場で殺された。正面のシャッターは鍵がかかっていて、裏の
木戸には数字を組み合わせて開錠する数字錠がかけられていたが、数字錠の組み合わせは社長しか
知らなかった。一体犯人はどうやって密室に侵入して犯行を行ったのか。警察は容疑者を二人に
しぼっているのだが(「数字錠」)。御手洗潔が挑む4つの事件を収録。


占星術殺人事件」「異邦の騎士」ですっかり御手洗ファンになった私。みなさまのお薦めに
従い、今度は短編集に手を出してみました。

むふ。むふふ。面白かったーーー!!(あ、また語彙力貧困が露呈している^^;;)
なんて、なんてステキなの、御手洗さんったらっ。どの作品も短編(というより中編に近いけど)
で書くには勿体ないような魅力があありました。トリックもそうだけど、御手洗さんの人となりや、
以前の事件との関わりを感じる描写に切なくなったり嬉しくなったり。新たな事件で関わった人
との温かい交流も心に沁みました。御手洗さんの行動は一見奇矯で意味不明に見えるけど、
いつもちゃんと一貫した信念があって、彼の行動の意味を知る度に彼の人柄に惹かれて行く。
だから、彼に関わった人は皆彼のことが好きになるんでしょうね。トリックだけに終始するの
ではなく、少しづつ御手洗さんの優しさや魅力を感じさせる描写が挿入されているところがいい。
ほんとに何気ない石岡さんの一言がじんわりと胸を温かくさせてくれます。細かくあげていったら
キリがない程、さりげなくそういう描写が挟まれているところがニクイな~と思いました。
4編どれもとても良かった。という訳で、以下各作品の短評。



「数字錠」
これは一番好きかも。ある人物の為に行動する御手洗さんにシビレました・・・。銀座のMP
ってマキシム・ド・パリのことでしょうね。クリスマスにマキシムで食事した後東京タワーで
夜景を見るなんて、なんてステキなデートコース!でも、その素晴らしい思い出の後には
切なさと苦さが残りました。御手洗さんのこういう所に女性読者はメロメロになっちゃう
んだろうなぁ・・・って、私かーー^^;
数字錠に関しては「えーー」とは思いましたけどね・・・^^;でも犯人の動機を知って
また犯人に同情してしまいました。島田さんの犯人の犯行動機は、いつも人間味が感じ
られて好きです。犯罪行為に同情もないもないといわれてしまえばそれまでなんですが、
「何故殺したのか」その理由に納得がいかない作品は好きではないです。だから、某作家
のように動機を書かないなんてのはもうもっての外。理由なき殺人なんて受け入れられない。



「疾走する死者」
ちょっとトリックはアクロバティックすぎる気もしましたが、面白かったです。ただ、こういう
トリックはいくつか先行作品を読んでいるので今読むと目新しさは感じられなかったですね
(出版当時読んでいたら全く違った反応だったかも)。でも、死体が走る、という不可解な謎の
提示は魅力的だし、御手洗さんの天才的なギターのシーンは素敵だし、チック・コリアにまた
出会えたのは嬉しかった。「異邦の騎士」のことがちょっと触れられていて、またあの時の
感動が甦りました。



紫電改研究保存会」
これはあんごさんの記事で触れられていて読むのを楽しみにしていた作品。始めは紫電改という
飛行機の薀蓄話に面食らったのですが、そこからああいう展開になるとは!バーでの二人組の
話を聞いただけで謎を解いてしまういわゆる安楽椅子探偵風。なんで紫電改?なんで封筒の
宛名書き?とさっぱり先の展開が読めずにいたので、御手洗さんの論理的な推理を聞いて
な~るほど~って感じでした。ラストがとってもいい。犯罪を行った人物が全く憎めない人柄
に思えてきて、読後に爽快感が残りました。語り手も良かったな。



ギリシャの犬」
これもかなり好きです。終盤でギリシャの犬と供に現れる御手洗さんの颯爽とした姿は「異邦の
騎士」を彷彿とさせました。あの時は黒い鉄の馬だったけど、今度の相棒は黒い犬。黒いものと
相性が良いのですかね(笑)。依頼人の青葉兄妹の人柄もとても良かった。彼らが何故か盲目的
に御手洗さんを信頼しているところに何か裏があるのかも、なんて勘繰ったりしていたのですが、
全く杞憂で本能で信頼できると見抜いたからなのでしょうね。事件解決後の御手洗さんとの会話も
良かった。御手洗さんを信頼する人がいることを嬉しく思っている石岡さんが微笑ましい。なんだ
かんだ云って、彼は御手洗さんのことを心から信頼しているし、大好きなのだろうな。




とっても内容の濃い短編集でした。すっかり御手洗さんの虜と化している私。次の短編集を
探すべくまた図書館に走らねば!