ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

金城一紀/「レヴォリューション No.3」/講談社刊

金城一紀さんの「レヴォリューション No.3」。

新宿区にあるとある落ちこぼれ学校に通う僕たち。周りの有名進学校の連中は僕らをことを
二つの理由から『ゾンビ』と呼んでいるらしい。一つは偏差値が脳死と判定されてしまう血圧値
くらいしかないこと。もう一つは『殺しても死にそうにないから』。そんな僕ら『ザ・ゾンビーズは、
毎年近所の良家の子女が通う偏差値も美女占有率も高い『聖和女学院』の学園祭に潜入し、
美女たちをナンパする‘潜入計画’を決行してきた。しかし、二年連続失敗に終わった。
そして、リベンジをかけた今年の聖和女学院の学園祭が近づいていた――『君たち、世界を
変えてみないかい?』。落ちこぼれ生徒たちの熱き冒険を描いた痛快青春小説。


イイ!イイぞーーー金城さん!おバカだけど友情に篤い青少年たちのバカバカしくも真っ直ぐ
な冒険がなんとも痛快で読んでいて気持イイ!「世界を変えてみないか?」で始まる彼らの
冒険。大人になったら「無茶だ」「無謀だ」で諦めてしまうことでも、彼らにかかれば不可能
も可能になる気がしてくる。勢いと努力だけで世界が制覇できると信じることができる十代の
彼らがとても羨ましい。くだらないことに心底から夢中になることが、自分はいつからできなく
なったのだろう。大学の頃までは平気で徹夜で一晩中友達と語り合ったりカラオケで歌ったり
出来たのに、社会に出てから、そんな無茶は自然と控えるようになってしまった。『次の日』の
自分の為に、仕事に差し支えがないように。ゾンビーズの面々がくだらないことに真剣に無茶を
やる姿は、若さの象徴そのもので、とても眩しく感じました。「世界を変えてみないか?」で
蜂起したゾンビーズが目指したのが、『名門女子高に潜入してナンパする』こと。なんたる
単細胞的思考!それがもう、この上もなく可笑しくて微笑ましい。でも、単なる学生たちの
おバカ騒動に終始するだけではなく、端々に「民族間差別」という暗い問題、「友の死」
という重い現実が見え隠れして、おバカで元気溌剌な彼らの中に、さらりと暗雲が落とされる。
このバランスが非常に巧い。底抜けに明るい彼らだけど、生きて行く上では、自分だけでは
どうしようもない何かに押しつぶされそうになる時がある。学歴が低いというだけで、国籍が
違うという理由だけで差別を受ける不条理。優しく頼りになる友が不治の病に侵されてもただ
見守るしかない歯がゆさ。ただ、そうした重さを経験しつつも、それを吹き飛ばすように明るく
笑って生きようとする彼らはやっぱり素敵で、すっかりゾンビーズの虜になってしまった。

本書には三作の中篇が収録されていますが、この構成が絶妙です。時系列的にはバラバラで、
何故この順なのか一見不思議に思えるけれど、ヒロシという人物を中心に考えると、この構成が
実に素晴らしいことがわかる。最後に収録されている「異教徒たちの踊り」のラストで、ヒロシが
語る残酷な王と一人の異教徒の物語の結末。時系列的には冒頭に収録されるべきこの作品ですが、
これを最初に読んでもそんなに胸に響かなかったかもしれない。ヒロシのその後を知った上で
この結末を読んだので、どうしようもなく胸が切なくなりました。そして、ヒロシがそれを
語ったことに重要な意味があったとわかりました。巧いなぁ、金城さん。やっぱり、好きだ!!

確かに重さもあるけど、基本的にはバカバカしくて笑える痛快小説。一人一人のキャラ造詣も
絶妙で、彼らのことが大好きになりました。私が男だったら、絶対一緒にバカやりたい!
一番噴出したのはやっぱりヒキの山下君。本当に、彼は偉大だ。
早く続きも借りてこよう。