ミステリ読書録

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本多孝好/「正義のミカタ ~I'm a loser~」/双葉社刊

本多孝好さんの「正義のミカタ ~I'm a loser~」。

高校時代までいじめられっ子だった蓮見亮太は、同級生の誰もいかない筈の大学に進学した。
4月からは今までの自分と決別し、新たな生活が送れると胸を躍らせていたが、入学式の日に
他の大学へ行った筈の高校の同級生・畠田が目の前に再び現れる。畠田は、高校時代と同様に
亮太を再びいじめ、お金をせびる為に秘かに同じ大学を受験していたのだ。早速お金を無心して
きた畠田を勇気を出して突っぱねたものの、結局は暴力を受けることに。しかし、亮太はそこに
偶然現れた同じクラスの桐生友一に助けられる。桐生は、自分が所属する『正義の味方研究部』に
亮太を連れて行く。そこは学内の揉め事を独自で調査・解決し、弱きを助け強きを挫く『正義の味方』
が集まる伝統的な団体だった。晴れて『正義の味方研究部』に入部し、今までの自分とは全く違う
楽しい学生生活を謳歌する亮太だったが、次第に『正義』とは何なのか考え始める――。


久々に読んだ本多さん。多分『真夜中の五分前』のSIDE-B以外は全部著作を読んでいる筈ですが、
どうも記憶に残る話がない。読んでる時は文章やストーリーなんかも好みで好きだな~と思う
のですが、さらりとしすぎていて心に残らないというのか・・・好きは好きなんですけどね。
さて、本書は今までの作品とガラリと作風を変えてきました。主人公の亮太は高校時代に酷い
イジメを受け、大学では今までの自分を変えようと決意し入学してくる。そんな彼の前に現れた
のが高校時代の仇敵・畠田。彼が再び亮太にお金をせびり、暴力をふるう冒頭のシーンは正直
読んでいるのが辛かった。畠田の全く身勝手な言動に嫌悪を感じて、この先こういうシーンが
続くのか・・・と辟易して、危うく挫折しそうになりました。そこで颯爽と現れたのが桐生友一
(トモイチ)。彼と出会い、『正義の味方研究部』に入部して青春を取り戻す前半部分は非常に
テンポが良くて面白かった。亮太のキャラがいじめを受けていたにしては真っ直ぐで、ひねて
いない所が少し引っかかりはしたのですが。普通、ああいう環境にいたらもっと性格が歪む気
がするんですが・・・。確かに好感は持てる性格なのですが、それだけに、彼がいじめられて
いた、という説得力があまり感じられなかった。

後半はガラッと変わって、『正義とは何か』ということを考えさせられます。最初は盲目的に
『正義の味方研究部』の活動を支持していた亮太も、潜入捜査の為に潜り込んだ企画サークル
で出会った間と行動を供にするうちに、何かが『違う』と感じ始める。この、先輩やトモイチ
たちから距離を置き始めるくだりが私はなんだかとても嫌だった。『正義の味方研究部』の
メンバーたちと、間やヤンたちの両者の間で揺れ始める亮太の気持ちも良くわかるし、多分私が
同じ立場になったとしても、やっぱり同じ様な感情を覚えたとは思うのだけれど。亮太が選んだ
選択にほっとしたものの、そこにはやはりもう一方への裏切りの後味の悪さみたいなものが
あって、爽快とは云えなかった。亮太が感じるように、釈然としない思いがこびりついたまま
終盤の展開を読んだので、そこで更に気持の悪さが残ってしまった。あのラストは賛否両論
らしいですが、私もあまり好きな展開ではなかったです。特に、最後の部長の行動には嫌悪と
虚しさしか感じなかったです。彼らがしていたことは一体何だったのか。これが彼らの『正義』
なのか。確かに、『正義』の定義は難しい。ある人にとっての正義が、別の人には全く正義
ではないこともあるし、正義だと思ってやったことが端からみたら単なるその人の自己満足に
しか見えなかったりもする。ラストで亮太が電車の中で経験したことは、多分多かれ少なかれ
経験したことがある人もいると思う。亮太が示した『誠意』は相手には伝わらず、そこには
『余計なことをした』というばつの悪さだけが残ってしまった。それでも、何もしないよりは
ましだとは思う。たくさんの人が乗っている電車の中で、亮太だけが行動に移せた。それが
どんなに格好の悪い結末でも、見ないフリをしてやりすごしてしまう大部分の人よりも、ずっと
勇気の要ることだと思います。亮太はきっと、『正義の見方』を変えたことで、少しだけ前進
したのだと思う。せっかく出会えた仲間と決別してでも、自分が思う『正義』を貫いたのだから。
それは彼が『弱者(負け犬)』だった自分を『強者』に変えた瞬間だったのかもしれません。

・・・なんて書いたものの、やっぱりこの結末には釈然としない。途中までは恋あり、友情あり、
の直球の青春小説として軽快に読めるだけに、終盤の展開にはモヤモヤ感が残り残念。本多
さんが、単なる青春小説だけにしたくなかったという意気込みはわかるのだけれど、それよりも
『正義の味方研究部』の活躍をメインにした痛快小説にした方が私はすっきりしていて楽しめた
気がする。いろんな要素を入れすぎて、どれも中途半端な印象になってしまっているので。
例えば蒲原さんとの恋愛もそうだし、畠田とのイジメ対決もそうだし、妹との関係なんかも
もうちょっとちゃんと書いて欲しかったです。

『正義の味方研究部』をどう捉えるかで、この作品の評価は大きく変わる気がします。
社会のルールが理不尽で溢れているというのは、きっと誰もが感じることだと思うので、
身につまされる部分も多かったです。結局、社会の『負け犬』になるかどうかは、本人の
意志次第ということなのでしょうね。
『正義とは何か』、是非読んで考えてみて欲しい作品です。