ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

金城一紀/「フライ、ダディ、フライ」/講談社刊

金城一紀さんの「フライ、ダディ、フライ」。

四十七歳の私は平凡なサラリーマンだ。私の夢は、妻と娘が幸せになること。そんな平凡な私の
平凡な夢があの日を境に壊された――娘に暴力を振るったあの男を私は許さない。あの男に
復讐すること、それだけが私の望みになった。そして、私は出会ったのだ、私の望みを叶えて
くれる彼らに。そして、私のひと夏の冒険が始まった――『おっさん、空を飛んでみたくは
ないか?」。破綻した世界を取り戻す為立ち上がった中年男のひと夏の冒険物語。


ゾンビーズシリーズ第二弾。岡田君と堤真一さんで映画化された作品の原作です。なんとなく
想像通りの話ではあったのですが、それがもう、ど真ん中に来ました。うぉ~~、コレ好きだーー!!
引き込まれて本当に一気読みでした(二時間あれば読めてしまう薄さでもあるけれど)。
47歳の冴えないオヤジ・鈴木さん。こんな中年男が主人公なのに、間違いなくこれは
青春小説です。妻と娘との幸せを取り戻す為に、ただ、ひたすらがむしゃらに頑張る鈴木さんに
感情移入しまくりました。よく考えると、ボクシングチャンピオンに戦いを挑んだって、
勝てる訳ない。そんなの誰が見たって無謀だってわかる。だから、後半の展開がご都合主義だと
言う人がいても仕方ないと思う。それでも、私は鈴木さんの頑張りに感動したし、あのラスト
シーンに胸が熱くなりました。おっさんだって、やれば出来る。空を飛ぶことだって出来るん
だって、勇気をもらった気がしました。
ゾンビーズのメンバー、特にスンシンと鈴木さんとのやりとりがとても良かった。鈴木さんが
スンシンに対して我が子のように愛情を注いでいるのが微笑ましかったです。師匠でもあり、
友人でもあり、息子のようでもあり。二人は、二人だけのトレーニングの間で培った目に見え
ない強い絆で結ばれていて、それはきっとこれからもゆるぎないものなんだろうな、と思え
ました。
ケンカがめっぽう強くて、強面だけど子供には優しいスンシンの性格がとても好き。一昔前の
マンガのヒーローそのまんまって感じもするけれど、このベタな感じがなんとも言えずイイ。
この作品は全てに置いてベタな展開が貫かれているように思う。先の展開が予想しやすく、
その通りに物語が進んで行く。でも、それがつまらないのではなく、その通りに展開するから
こそ、実に爽快なのです。
鈴木さんがトレーニングを続ける中で、ちょっとづつ周りの人の目が優しくなって、頑張った
ご褒美の差し入れが増えて行く。何度となく挑んで敗れて、そしてついにバスとの競争に勝った
鈴木さんを、バスの運転手が涙を浮かべながら賞賛する。こうした、ちょっとした人の温かさ
に何度も胸が詰まりました。やってくれるなぁ、金城さん。金城さんは、人を感動させる
ツボを心得ていると思う。何気なくさらりと感動させるストーリーを盛り込むのが実に巧い。
そこに私はいちいちやられては、ああ、好きだなぁと思わされてしまう。もう、金城作品に
ノックアウトされまくりの私です^^;今年出会えて一番嬉しかった作家なのは間違いない。

もちろん、我らがゾンビーズのメンバーたちも大活躍。特に山下君。今回も派手にやらかして
くれてます。ラストの石原との戦いのシーンでの頑張りに泣きそうになりました。鈴木さんの
「愛してるぞ、山下」にやられました・・・くぅ。
やっぱり、君は偉大だ、山下君。

読み終わって、猛烈にこれの映画が観たくなりました。DVD借りてこようかな。映画は
金城さん自らが脚本書いているらしいし。岡田君がスンシンというのはちょっとイメージ
違うけど^^;でも好きだから許す(何故上から目線?^^;)。「映画篇」で出て来た
ローマの休日」や「燃えよドラゴン」なんかのお馴染みタイトルも出て来てにやり(もちろん、
こちらの方が先ではあるのですが)。金城さんは、本当に映画がお好きなんですねぇ。

心がくじけそうになった時、何度でも読み返したいです。たくさんの勇気をもらったような
気持ちです。世の中の疲れた中年男性にも是非読んで欲しいですね。きっと、空も飛べるような
爽快な気持になれるはずです。