ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

早瀬乱/「サトシ・マイナス」/東京創元社刊

早瀬乱さんの「サトシ・マイナス」。

国立大学の4年生、稲村サトシは就職も決まり、卒業まで残り二週間に迫ったある日、母親に
重大な報告をする為自宅へ向かった。その報告とは、就職を蹴って、母には内緒で付き合って
いた吉沢カレンと結婚し、美大を目指すというものだ。母にどう切り出すか悩むうちに眠って
しまい、その間に隠れていたもう一つの人格『サトシ・プラス』が目覚め、警告文を記した
メモをサトシのダッフルコートに忍ばせていた。少年時代に自分の人格をプラスとマイナスに
分け、その分割を記したリストを作ったことを思い出したサトシは、その分割リストを探し
始める。自らの過去を振り返りながら、本当の自分を探す青年の成長を描いた『多重人格
ミステリー』。ミステリフロンティアシリーズ。



未読の方はこの記事を読まれないことをお勧めします。自分の為の覚書として書きます。
(黒べる子が顔出してます^^;;)







えーっと、カバー折り返し部分に江戸川乱歩賞受賞の気鋭が贈る、明るく爽やかな
‘多重人格’青春小説』って書いてあるんですけどね。私には全然明るく爽やかに
思えなかったんですよね・・・。

早瀬さんの作品はどれもが独特の個性を持った怪作だと思っているので、早瀬さんがミステリ
フロンティアで書かれると知ってかなり楽しみにしていたのです。青春ミステリらしいし。
でも、これは全くダメでした・・・危うく挫折しかけるかと思いました。確かに、自分の
性格をプラスとマイナスに分けて自主的に多重人格を作り出して精神安定を図るという
設定は今までになかったもので、早瀬さんらしい切り口だなとは思いました。でも、作中
頻発する太字にも辟易したし、登場人物がことごとく好感が持てない。今までの早瀬作品
なら、それでも強い吸引力でぐいぐい読まされてしまう所があったのだけど、今回は全体的に
もやがかかったような現実感のなさに読んでいて落ち着かない気持ちになるばかりで、先が
気になるというより、早くこの本を終わらせたいが為だけにページを捲っている自分が
いました。とにかく、何か生理的に受け付けない作品でした。さっさと見切りをつけて
違う作品に向かえば良かったのだろうけど、もう少し読めば面白くなるかもしれない、と
思い続けて読み進んでいるうちに止めるに止めれなくなり、結局最後まで読んでしまい
ました。ただ、最後まで読んでも、ミステリとしての真相も、サトシの人格分裂の結末も
いまひとつ盛り上がりに欠けるまま終わってしまった感じで、結局何だかよくわからない
作品という印象でした。
『成長小説』と銘打たれてますけど、そういう要素も私には感じられなかったんだよなぁ。
確かに最終的に三重人格が統合して一人の完全なサトシになる訳で、そういう意味では成長
って言いたいのかもしれないけど・・・。でも、それは精神の安定というだけで、成長とは
また違うように思います。サトシ本人が大人にならなければ、成長とは言えないと思うのですが。
サトシの過去の場面も嫌悪を感じるものばかりで、爽やかとか懐かしいとかの感情は全く
覚えなかった。一体どこを読み取ったら「明るく爽やかな青春小説」という言葉が出てくるんだ?
あのの文句を書いた人はほんとに作品を読んだのかと疑ってしまいましたよ^^;

でも、各サイトの書評を見ていたら、かなり評判がいい。あ、あれれ。こんなに酷い評価なの
私だけ!?しかも、中には『登場人物に好感が持てた』なんて書いてる人もいました。
・・・私と全く逆じゃんかーー^^;サトシの性格もカレンの性格も、私は全然受けつけ
なかったけどなぁ。どこが好感が持てるんだ。サトシ・プラスや金色のサトシなんて全く
好感が持てないと思うけどな。ぶつぶつ。サトシの母親にも嫌悪しか覚えなかったし。
辛うじて好感が持てた人なんて、義父くらいだったけど。登場人物が嫌いでも、ストーリーが
面白ければ私はそれで評価するんですが、この作品はそこもダメだったので、もうお手上げ状態。




まぁ、唯一無二のストーリーを思いつけるという点では、今回も当てはまるとは思うのですが。
正直、私には合わない作品でした。すみません・・・^^;
でも、早瀬さんが好きなことには変わりないので、これからも注目するつもりです。