ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖/「壁抜け男の謎」/角川書店刊

有栖川有栖さんの「壁抜け男の謎」。

様々な雑誌や新聞に寄稿した短編を16作収録。犯人当て、敬愛する作家へのオマージュ作品、
ショートショートに、近未来SF・・・有栖川ワールドの魅力が詰まった短編集。


有栖川さん新刊です。かなり雑多な印象の短編集。統一感は全くありません。本格パズラー的な
ものは面白かったのですが、正直意味不明なものやいまひとつ・・・というものが多かったです。
作品に合わせて文体も微妙に変えたりして器用な面も覗かせてはいるのですが・・・やっぱり
有栖川さんにSFやら幻想小説やらは似合わないような気がしました^^;ちょっと無理してる
感じがあるというか・・・本人は楽しんで書いているのかもしれないけれど。




では、印象に残ったもののみ短評を(ほとんど前半の作品)。



『ガラスの檻の殺人』
犯人当てアンソロジー『気分は名探偵』に収録されていたので既読。初読の時は全くわかりません
でしたが、トリックも犯人もばっちり覚えてたので今回はもちろん当てられました(って、
当てたって言わないって^^;)。


『壁抜け男の謎』
これも新聞の懸賞つき犯人当てだそう。これは逆転の発想で面白かった。犯人?もちろん
当てられませんでしたが、何か?(開き直るなーー^^;)


『下り「あさかぜ」』
時刻表ものは苦手ですが、これはわかりやすかった。もちろん、時刻表ページは読み飛ばし。
鮎川さんの『王を探せ』が読んでみたくなりました。短編なのかな??


『キンダイチ先生の推理』
これも横溝正史へのオマージュ作品を集めた『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲』で既読でした。
語り手とキンダイチ先生の関係がいいですね。でも、耕助石に関する考察には首をかしげて
しまいました。


『彼方にて』
終盤読むまで何が書きたいかよくわからなかったのですが、ある描写で「もしかして・・・」
と思ったら、やっぱりアノ作品へのオマージュだったんですね。でもいまいちピンと来る話
ではなかったです(だいたい、その作品読んでないし^^;)。


『ミタテサツジン』
これは『獄門島』へのオマージュ。こういう設定は好きなんですが、主役二人のキャラに
好感が持てず、あまり好きな作品ではなかったです。ラストも救いがない。まぁ、因果応報
というやつではありますが。


『屈辱のかたち』
こんな理由で殺されちゃうのは勘弁して欲しいですよねぇ。世の中の辛口評論家の方たちが
読んでどう思うんでしょう^^;犯人は完全に狂ってます。やっぱり、デビュー前の作品が
『最高傑作』なんて評価されちゃうと、作家としては複雑な気持ちになるものなのでしょうね。


『猛虎館の惨劇』
なんちゅー真相だ^^;個人でこんなモノを飼いたいなんて酔狂にもほどがあります。恐るべし
阪神タイガースファン。それがアダになったわけですが^^;


『迷宮書房』
これは太田忠司さんあたりが書きそうな話だな~と思いました。世界中の本が集まる本屋
・・・行ってみたい。


ジージーとの日々』
近未来SFとしてはちょっと中途半端な感じ。ラストはジーンとさせる話ではありますが、
読み物としては深みが足りない。一応ミステリ的な仕掛けもあるのでその辺は巧いの
ですが、やはり有栖川さんにSFは似合わない気がしました。


『恋人』
一応テーマは『官能小説』らしいです。うーん、微妙。有栖川版『ロリータ』を狙ったのか。
やっぱり有栖川さんはミステリを書いていた方がいいと思うな・・・。




寄稿した先も新聞・雑誌・アンソロジーとばらばらだから、かなり脈絡のない短編集という
印象でした。まぁ、いろんな有栖川さんが見れるという点は間違いないです。こんなのも
書くんだー!と驚くような作風のものも結構ありました。依頼されてテーマに沿わなきゃ
いけないという規定の枠があると、いろいろ大変なんだろうなぁ。あとがきで各作品の
解説があるのですが、苦心ぶりが少し伺えるように思いました。